2024年11月24日( 日 )

障害者施設殺傷事件は、シニアにとって対岸の火ですか?(1)

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第47回 大さんのシニアリポート

 7月26日未明、神奈川県相模原市緑区千木良にある障害者施設「津久井やまゆり園」で、侵入してきた男が入所者19人を殺害、26人(後に27人に)重軽傷を負わせるという前代未聞の事件が起きた。「障害者は生きていても無駄」というのが殺傷の動機だと本人は話す。この不可解な動機、残忍な殺傷方法は全国民を震撼とさせた。各マスコミはこぞってこの問題を連日報道。動機付けに関しては、社会心理学者、精神科医、傷害学者、刑法・医事法、司法精神医学者など、総動員での分析を紹介したものの、動機に関しては以前謎のままだ。問題は、「障害者」という範疇を広げたとき、近い将来確実に「障害者」としての道を避けて通ることはできない高齢者もターゲットにされかねない。4回に分けて報告したい。

img 事件の推移を略述してみる。7月26日午前2時頃、同園元職員植松聖(26歳)が「津久井やまゆり園」の窓ガラスをハンマーで割って侵入。東棟の1階から西棟の1、2階へと移動しながら次々と入所者を襲った。職員の手を結束バンドで縛り、最重度の知的傷害者(話すことができない)を重点的に襲った。凶行は実に50分にも及んだ。「亡くなったのはいずれも入所者で、41~67歳の男性9人と、19~70歳の女性10人。(中略)重傷者が13人」「2時45分頃職員の一人が(中略)110番通報した。その5分後、植松容疑者のものとみられるツイッターに、『世界が平和になりますように。Beautiful japan!!!!!!』との書き込みがあった。自撮り写真ではこわばった笑顔を浮かべていた。約7キロ東の津久井署。午前3時ごろ、植松容疑者が血のついた3本の刃物を持って『自分がやりました』と出頭し、殺人未遂と建造物侵入の疑いで緊急逮捕された」(「朝日新聞」平成28年7月27日)。搬送される車の中で、笑っているような容疑者の姿。逮捕後の取り調べの際、「今回の事件に関しては、突然のお別れをさせるようになってしまって遺族の方には心から謝罪したいと思います」(同日夕刊)と述べている。殺戮の動機が拡散していく。
 植松容疑者とはどのような男だったのだろう。『週刊朝日 2016年8月12日号』などを参考に検証してみたい。

・子ども、学生時代:1990年1月生まれ。1歳のころに東京都内の団地から、相模原市に移住。父親は都内の小学校の図工教師。母親は漫画家。中学時代は熱心なバスケットボール部員で、勉強もできるほうだった。中堅の私立大で教育学部に進学、初等教育を専攻し、小学校教諭を目指す。八王子市内の学童保育で指導員補助のアルバイト(3年生の終わりまで)を始める。子ども好き。
・異変:この頃、両親だけ、都内のマンションに引っ越す。理由は「入れ墨を入れたことに両親が怒ったから」。友人に「(入れ墨の)彫り師としてやっていく」といい、入れ墨を彫る機器まで買いそろえる。大学4年の5月末から母校(小学校)で教育実習。友人の懸念どおり、水泳の授業で入れ墨を隠すのに腐心し、スイムスーツを着て全身を隠す。教員免許採用試験の申し込みを失念し受験せず。いきあたりばったりの生活。
・麻薬=入れ墨を入れるときに生じる苦痛を緩和させるため大麻を使用。大麻の栽培を始めるも、うまくいかず。危険ドラッグにも手を出す。
・就職:12年3月卒業。清涼飲料水を扱う会社に就職するも、数ヶ月で退職。その後、「津久井やまゆり園」を運営する社会福祉法人「かながわ共同会」を受験し、非常勤職員として採用。翌13年4月に常勤職員に。
・異常言動と行動(1):常勤採用直後からTシャツを着て出勤。入所者や職員にわざと入れ墨を見せる。15年春になると、過激な右翼思想を展開し、「宇宙からテレパシーが来る」と真顔で話す。
・異常言動と行動(2):今年2月15日、衆院議長公邸に犯罪予告の手紙持参。同時期、園周辺の家に「障害者なんて生きていても無駄」などと書いた文書をポスティング。「こらぁ、障害者のくせに」「いらねえんだよ」と暴言を吐く。こうした異常言動・行動に園側が本人と面接。「2月19日の面接でも『抹殺』『安楽死』といった言動があったため、終了後に(津久井)署は園内で警察官職務執行法にもとづいて植松容疑者を保護。(中略)(相模原)市内の北里大学東病院に措置入院した」「3月2日、『他人を傷つけるおそれがなくなった』という医師1人の判断をもとに市は退院を決めた」(「朝日新聞」平成28年8月3日)。退院の条件として、「別の自治体で家族と同居することになっていたが、実際には市内の実家に1人で暮らしていた」(同)。4月、「動けない、話せない障害者はごみ。もう自分でやるしかない。動かないから刃物でやれる」とバイク仲間に話す。

(つづく)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。

 
(46・後)
(47・2)

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