2024年12月22日( 日 )

豊洲新市場に横たわる3つの根本問題

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 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事から一部を抜粋して紹介する。今回は、東京・豊洲に計画されている新市場が抱える3つの根本的問題点について持論を述べた、8月30日付の記事を紹介する。


 東京都知事に就任した小池百合子氏が築地市場の豊洲への移転を延期する方針を固めたと報じられている。築地市場の移転は11月7日に予定されていたが、土壌および水質汚染の問題、新市場の施設構造の不具合が指摘されており、問題を抱えたまま、移転が強行されるのかどうかが焦点となっていた。見切り発車での移転強行を避けたことは正しい選択であり、この点は評価できる。

 しかし、一時的に時期を先延ばしするだけで、本質的な問題を解決しないのなら意味はない。単なるガス抜きになってしまう。大きな問題が三つある。

 第一の根本問題が土壌汚染問題だ。豊洲市場が使用する土地の大半は東京ガスのガス製造工場があった場所で、土壌が汚染されているという問題が表面化したのは20年近くも前のことだ。ガス工場の跡地であり、もともと発がん性の指摘されるベンゼンなどの有害物質が存在するとの疑念が強かった。1998年の土壌調査開始以降、規制基準値を上回る有害物質の存在が確認されてきた。
 その後、東京都が移転を正式決定したあと、土壌対策が完了したとされてきたが、再調査が実施されると、再び規制基準をはるかに上回る汚染が確認されてきた。ベンゼンやシアン化合物だけでなく、ヒ素、水銀、六価クロム、カドミウムなどの極めて危険な物質が規制基準値を上回る濃度で存在することが確認されてきた。
 市民が直接摂取する食品を取り扱う市場の地下に、このような有害物質が存在することが許されるわけがない。

 第二の問題は、新市場の建屋構造が市場の機能を完全に損なう恐れが高いことだ。とりわけ問題視されているのが輸送用車両から物資を搬出入する間口が狭く設計されていることだ。より多くの車両を搬入させるためにトラック後部と搬出入口を接する設計になっているが、通常はトラックの側面を開口して搬出入を行う。搬出入に伴う時間を節約するためである。生鮮魚介類を扱う市場であるから、時間短縮が生命線になるが、この本質を見落とした設計は致命的である。
 また、各フロアの床の荷重限度が低く設計されており、物資の取扱いが不可能になることだ。フォークリフトが行き交うフロアであるため、十分な荷重強度が必要であるが、これも確保されていない。

 第三の問題は、仲卸業者を中心とする魚食文化の知識と、人的ネットワークが破壊されることである。豊洲移転問題について建築の専門家として批判している『マンガ建築考』の森山高至氏がブログでこの問題の詳細を精力的に記述されている。

 築地市場の豊洲移転が不可能な理由(15)このシリーズ記事の12回目に次の記述がある。

 「日本の食文化を支えているのは、仲卸さんを中心とする魚食文化の知識と、人的ネットワークなんです!だから、漁業生産者も卸会社も仲卸業者もスーパーや小売り、割烹、居酒屋、飲食店、最終消費者は仲違いしてはいけません。豊洲の問題で互いが喧嘩してはいけません。このネットワークの循環が切れたときに、日本の食文化は死にます。それを断ち切り続けてきたのが、たかが数年前に見識も品性も低い一部の政治家と一部議員と不動産屋と建築屋による豊洲計画なんです。」

 新市場の店舗が用いる水は、海から汲み上げて濾過した海水である。その海水が汚染されているとすれば、市民の健康に重大な影響が生じることは疑いようがない。また、卸売棟と仲卸売棟とは道路で隔てられており、両者は地下の通路=アンダーパスで接続されているが、その構造があまりにも脆弱なのである。

 東京の首都高速道路は1964年の東京五輪に合わせて整備されたものだが、放射状に広がる片側2車線の道路がすべて合流する中央の環状線が片側2車線で建設された。これが恒常的な大渋滞の元凶になることは、小学生でも分かる問題だった。ところが、その建設を強行したために、その後の回収のコストは膨大なものになった。長い視野で、十分に検討を加えて、万全を期して設計、建設、竣工する。当たり前のことができないのだ。
 場当たり的な対応で見切り発車せず、根本的な対応を考えるべきだ。目先の計算で進むことが、結局はより大きな損失を生み出すのである。

※続きは8月30日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」第1527号「大過失を除去しない判断はより大きな大過失」で。


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・植草一秀の『知られざる真実』

 

 

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