ポピュリスト手法を駆使する小池都知事の政治手法と今後(前)
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SNSI・副島国家戦略研究所 中田 安彦
衆議院議員だった小池百合子氏が自民党を飛び出して、清水の舞台から飛び下りる覚悟で臨んで圧勝した都知事選から、もう1カ月以上経過した。小池氏は、自民党都連が推した増田寛也元総務大臣と、民進党や共産党などが推したジャーナリストの鳥越俊太郎氏の2人を、ものすごい勢いで蹴散らした。291万票というのは、初当選では歴代2位だそうだ。
彼女の手法は、巨大な既得権に切り込み、大衆の支持をバックに勝ち上がるという、かつての小泉純一郎首相を思わせるものだ。都知事選挙では小池氏と、「都議会のドン」と言われた内田茂都議に代表される「抵抗勢力」の戦いが、メディアによって否が応でもクローズアップされた。
もともと舛添要一前知事が公私混同問題で辞任に追い込まれたことで行われた知事選だったが、週刊誌を中心に味方につけてはわかりやすいシンボルカラーである緑を多用し、一人既得権に挑む“ジャンヌ・ダルク”として演出する、実にうまい構図をつくり上げた。五輪開催は決まったものの、当初の想定とはかけ離れた巨額のコストがかかることが判明し、そこに舛添都知事の公私混同の問題や都議のリオ五輪の高額公費視察計画の発覚といった事態が重なったわけで、都民の怒りは最高潮に達していた。
「都民ファースト」を掲げる小池知事の手法は紛れもなく、既得権益への不満を爆発させて選挙を勝ち抜くという、アメリカ流のポピュリズムと言える。翌々日の初登庁の会見では「都政改革本部」の設置を表明したが、小池知事の事実上の「初仕事」は、世界へのお披露目の場ともなる、リオ五輪の閉会式で五輪旗を受け取ることだった。小池知事の仕事は、東京五輪を成功させることと同時に、東京五輪にまつわるさまざまな「不透明」について切り込み、ある程度まで都民や国民が納得するように説明をすることになる。待機児童問題などの解決に力を注ぐことももちろん重要だが、小池知事が石原、猪瀬、舛添と3人の都知事が手をつけることができなかった都庁の膿(うみ)を、切除することはできないまでも、存在を明るみにしていかなければならない。
よく、政治の世界では、「初当選」の政治家には“ハネムーン期間”が与えられると言われる。アメリカ大統領の場合は、初当選から100日の間がそれに当たると言われており、その期間は政権に対する攻撃を、野党もマスコミも控えるというものである。日本の都知事や政権の場合は、人が変わっても政権移行期間が事実上ゼロの状態で職務を行わなければならない。そう考えると、米大統領のように就任式まで約2カ月半の余裕もない、ということになるから、もう少しハネムーン期間は長いと考えても良さそうだ。
いずれにせよ、小池都知事はハネムーン期間終了までに、権力基盤を固めなければならない。その意味で重要になるのは、まだ数年の余裕があるオリンピックよりも、築地市場の豊洲新市場への移転問題の取り扱いだ。
小池知事は知事選挙の途中から、この移転問題に強い関心を示していた。8月26日の記者会見で「決まった日程でそのまま進めていいのか」として、移転の意向を匂わせ、正式に8月31日に、「土壌汚染など安全性への懸念」「巨額で不透明な費用の増加」「情報公開の不足」を理由に、移転延期を表明している。
ここで重要なのは、小池知事が移転先の豊洲市場の環境問題にからめて、地下水の水質モニタリングの結果を見てから判断したいとしていることだ。この調査は、何度かに分けて2年間の間行われてきたが、11月18日に最後の採水があり、その結果が1月に出るというのである。新聞報道では、「豊洲移転は2月か」とも書かれている。これを見る限り、小池知事のハネムーン期間は、最長でも来年2月上旬と考えられる。この時期を過ぎて、築地移転問題について小池知事が明確な方針を打ち出せなければ、マスコミがいきなり彼女を叩き始めるだろう。なぜそのように考えるかというと、大阪市長をしていた橋下徹氏がツイッターで「小池都知事の築地市場移転延期は、鳩山民主党政権時の普天間基地は最低でも県外移転、と同じ政治的結末をたどるだろう」(8月30、31日)と、この問題を鳩山政権の普天間移設と絡めて書いていたからだ。
あのときも、普天間の辺野古移設見直しについて、マスコミは鳩山元首相が「最低でも県外、できれば国外」と政権交代選挙前にぶちあげたのを受けて、政権発足後にも「一体いつになるのか」と期限を明示するように急かした。知らぬ間に一部報道で「年内決着」が囁かれ、年明けからは政権批判が本格化し、5月になっても問題が解決しなかったことから、政権崩壊に追い込まれた。今回の小池知事の豊洲移転延期では、環境対策という「大義名分」はあるものの、11月7日の当初の移転日を白紙に戻すわけだから、業者への補償問題も生まれる。建設がまったく進んでいなかった辺野古よりも、さらにシビアな問題とも言える。
実際に、豊洲市場の建物を近くで見てみたが、もうすでに築地市場とはまったく違う巨大なコンクリートの建造物が、豊洲の埋立地にほとんど完成している。総工費は5,000億円かかったという。
たしかに豊洲には、すでに複数の識者から指摘されているように、実際の市場関係者のニーズを無視した設計になっているなど重大な問題もあるが、これまでのコストを考えると、永久に延期しておくこともできないだろう。
かつて、青島幸男都知事が「経済効果が見えない」として「都市博」を中止したことがあったが、それ以上に困難なことだろう。(つづく)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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