今、インド社会を根底から覆す改革が進行中!(2)
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(株)インド・ビジネス・センター 代表取締役社長 島田 卓 氏
英国の著名な経済学者であるアンガス・マディソンの統計によれば、19世紀初めまでは中国とインドが世界のGDPの半分近く(1820年の統計で29%を中国、16%をインド)を占めている。今後の世界経済を考える場合でも、世界人口の約4割を占める中国とインドを中心に、アジアが世界の中心的存在になる「リ・オリエント」のシナリオは変わらないという経済学者は多い。その中国とインドであるが、昨今は明暗を分けている。中国の経済成長率は2015年6.9%で16年は6.7%の減少予測に対し、インドは15年7.3%で、16年は7.8%の拡大予測となった(世界銀行「世界経済見通し」16年1月公表)。
では、今後大きな発展が見込まれるインドと日本は現在、どのような経済関係にあるのか。その両国の未来には、どんな青写真が描けるのか。インド政財界に幅広いネットワークを持つ、インドビジネスの第一人者の島田卓氏((株)インド・ビジネス・センター代表取締役社長)に聞いた。島田氏によると、今インドでは、14年就任のナレンドラ・モディ首相の下でインド社会を根底から覆す大改革が進行中であると言う。国民の圧倒的多数がモディ首相の改革を支持
――今、モディ首相(インド人民党)の下で、インド社会を根底から覆す大改革が進行中であると聞きました。それはどのようなものですか。
島田 インドはこれまで、「2回独立した」と言われています。1回目は、政治的独立で、1947年8月15日に、それまでの宗主国イギリスから独立したことです。
2回目は、経済的独立で、91年に社会主義的混合経済体制に見切りをつけ、経済開放を行い、マーケット・オリエンテッド(市場主義)の自由主義経済に鞍替えしたことです。
その後、インド経済は順調に発展、アジア第3位の経済規模を誇るまでになり、91年に起こったような外貨危機とは縁遠くなっています。しかし、インドは建国以来、ネルー・ガンディー王朝の下で、腐敗・汚職が進み、歯槽膿漏(しそうのうろう)にたとえると、完全に歯の根本が腐る寸前の状態にあります。この場合、歯槽膿漏は歯茎や骨の病気なので、細菌を除去するための苦痛をともなう根本的治療が必要です。しかし、従来までの政策は、故意に根本的治療を避け、上部だけの治療「リップサービス」でごまかしてきました。なぜなら、大きな既得権益・利権を持つ人たちが抵抗勢力として存在し、政治がそれにおもねっていたからです。
しかし、もうそれも限界に来ていました。どんどん貧富の差が拡大し、衛生状態も良くならず、電力などの社会インフラの整備も遅れ、いつまで経っても、限られた官僚や富裕層だけがよい思いをする社会が根付いてしまっていたからです。では、誰がネルー・ガンディー家の呪縛を解き放つ改革をやってくれるのか。その国民の期待を一身に背負って、救世主のごとく中央に打って出たのが、2014年に首相に就任したナレンドラ・モディ、その人なのです。いまだ既得権益や過去の栄光にしがみつきたい連中を除けば、インド国民の圧倒的多数がモディ首相の改革を支持しています。
諸外国の政治家も賛辞を惜しんでいません
――それはすごいですね。そもそも、モディ首相とはどのような人物なのですか。
島田 モディ首相の前職は、インド北西部のグジャラート州の首相です。グジャラート州はインドで最も経済的に成功した州と言われ、インド経済が4%台に落ち込んだときも、汚職の弊害や官僚制度の縛りのあるなかで、2ケタの経済成長率を達成しました。
そのうえ、政治力とビジネスに長けたモディ首相には、諸外国の政治家も賛辞を惜しんでいません。11年9月に出た米連邦議会調査局(CRS)の報告書では、「ナレンドラ・モディのグジャラート州統治がインドで最も優れている」と持ち上げています。また、モディ首相は、「MODI MEANS BUSINESS」という見出しでTIME誌の表紙も飾りました。人物的には17歳で家を出てインド人民党(BJP)の支持母体でもあるヒンドゥー至上主義組織「民族奉仕団(RSS)」に加わっています。その後、グジャラート大学において政治学修士号を取得しました。
モディ首相のすごいところは、ヒンドゥー至上主義者でありながら、ビジネスとなると、宗教を超えた為政者になれることです。グジャラート州最大の都市アーメダバードから車で20分ほど北に位置する州都ガンディナガールには、直線の高速道路が延びています。また、他の洲内道路建設でも、まっすぐな道路の妨げとなるヒンドゥー寺院を100以上も移設させました。これは、ヒンドゥー至上主義者にとっては、命がけの行為です。理を通すことで、ヒンドゥー至上主義者を押さえ込む、そんな離れ業ができるのも、彼ぐらいだと思います。土曜はもちろん、時には日曜まで働いています
モディ首相は今、(1)「MAKE IN INDIA」、(2)「CLEAN INDIA」、(3)「DEGITAL INDIA」、(4)「SKILL INDIA」、(5)「START UP INDIA」、(6)「SMART CITY INNDIA」という6つのスローガンを挙げて改革に邁進しています。
彼の改革姿勢は、「Perform or Perish」(成果が出ないのであれば、辞表を差し出せ)というとても厳しいものです。しかし、グジャラート州から連れてきた優秀な高級官僚を含め、心酔者も多く、土曜はもちろん、時には日曜まで皆働いています。モディ首相自身も世界中を飛び回り、夜遅く出張から帰っても、翌朝5時には起床、執務を開始していると言われています。インド中銀次期総裁はパテル氏に決まった
――経済・金融でモディ首相をサポートするインド中央銀行、その総裁ラグラム・ラジャン氏の退任が決まりました。現政権に与える影響は何かありますか。次期総裁は決まりましたか。
島田 ラジャン・インド中銀総裁は、3年の任期が終了するこの9月に退任が決まりました。また、8月20日に、インド政府は後任に副総裁のウルジット・パテル氏(52)を指名しています。ラジャン現総裁は、インド人民党(BJP)が14年に政権を奪取する前年の9月、当時のマンモハン・シン首相に請われ、米国から一時帰国して総裁に就任しています。しかし、与党インド人民党幹部からは、自国の重要情報を米国に流すなど、反国民的行為が目に余るとして、即刻首にすべきだとの激しい攻撃にさらされていました。
ラジャン総裁はとてもラッキーでした。それは、就任すると同時に、原油価格が大暴落したからです。インドは自国消費の原油の8割を輸入に頼っています。ピーク時の3分の1以上下落したため、バレル100ドルで約10兆円だった原油輸入支払い代金が、3兆円強で済むことになりました。
結果論ですが、インフレは抑えることができ、銀行の不良債権についても積極的に整理する、という方向へ足を踏み出せました。さらに言えば、金利については、経済界の強い要求に対しても安易な利下げで応えることなく、矜持を保ちました。次期総裁のパテル氏もとても優秀な方です。1990年に米国エール大学で経済学博士号を取得し、国際通貨基金(IMF)でエコノミストとして働いています。帰国して、インド財務省のコンサルタントを経て、13年1月にインド中央銀行副総裁に就任しました。パテル氏はグジャラート州出身です。モディ氏が同州の首相時代に政策提言をしていたという話もあり、関係は近いと言えます。
(つづく)
【金木 亮憲】<プロフィール>
島田 卓(しまだ・たかし)
1948年生まれ。明治大学商学部卒。72年東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。本店営業部、ロサンジェルス支店、事務管理部、大阪支店を経て、91年にインド・ニューデリー支店次長に着任。約4年間インドに駐在。97年同行を退職、同年4月に(株)インド・ビジネス・センターを設立し、現職に。東京商工会議所の中小企業国際展開アドバイザー。
著書として、『インドビジネス脅威の潜在力』(祥伝社新書)、『スズキのインド戦略』(監訳、中径出版)、『トヨタとインドのモノづくり』(編著、日刊工業新聞社)、『日本を救うインド人』(講談社)、『インドがわかる本』(廣済堂出版)、『インドとビジネスするための鉄則55』(アルク)など多数。TV出演、講演等として、NHK「クローズアップ現代」、「Biz スポワイド」、NHKワールド「ASIA 7 DAYS」、BSフジ「LIVE PRIME NEWS」など多数。関連記事
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