G20開催に秘められた中国とロシアの狙い(3)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
今回のG20の知られざる狙いは杭州という中国にとっては情報産業や新規事業の中心地という特色を最大限に生かしたという点である。日本ではほぼ無視されたが、今回のG20の表の主役が習近平国家主席だとすれば、影の主役はジャック・マーであった。言わずと知れたeコマースの最大手アリババの創業者に他ならない。
実は、アリババの本社が置かれているのが、この杭州なのである。G20の参加者たちは皆このアリババの本社を案内され、この中国生まれのIT企業の可能性と魅力を十二分に堪能したというわけだ。何しろ、ジャック・マー本人が各国の首脳たちを直接案内し、質問に答えながら社内を回るというサービスが行われているのである。
このアリババの吸引力のおかげで、杭州には「ドリームタウン」が誕生している。1年間で680社を超える中国の新規企業が起ち上がっているのが、この夢の街だ。ジャック・マーの呼びかけで、G20ならぬ、B20とよばれるビジネスサミットも開催された。
ここには世界各国から中小企業の経営者たちが多数結集しているのである。彼らを前にして、ジャック・マーは「現在、世界では自由貿易やグローバリズムに反対する人々が声を大にし始めている。しかし、これからの世界経済の方向性を見据えた時に、国境を超えた電子取引の主役になるのは、中小企業なのである。発展途上国や女性、そして若い世代が世界経済の主役の座に躍り出るよう、我々は力を合わせようではないか」と訴えた。
このジャック・マーのメッセージに素早く反応したのが、インドネシアのウィドド大統領であった。同大統領曰く「インドネシアには5,600万社を越える中小企業が存在している。こうした多くの中小企業が中国をはじめ世界市場で活躍できるようにするため、ぜひアリババの力を借りたい。ついては、ジャック・マー氏にインドネシアの経済顧問に就任してもらいたい」。習近平の政治力とジャック・マーの経済力が合体した瞬間である。
中国はG20の場を最大限に生かし、長期的な観点から保護主義に反対し、貿易の多角化を中国スタイルで進めることに新たな布石を打つことになった。そしてもう1つ、注目すべき動きがG20の場で確認された。それは、IMFと世界銀行の改革に向けてG20各国が合意に達し、その結果、中国の進める人民元の国際化が一挙に加速したということである。
特に発展途上国における資金需要に対し、これまでのドル、ポンド、ユーロ、日本円、という四極体制に人民元を加えた新たな資金供給体制が確立したことの意味は計り知れない。IMFの特別引出権(SDR)に人民元が加わったことの波及効果は大きいはずだ。これまでアメリカ主導の国際金融のメカニズムが働いてきたが、そこに中国が新たに参入し、途上国を味方につけ、グローバルなインフラ整備と革新的な環境改善事業への道が開かれたわけだ。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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