ヒラリーが自滅 トランプ大統領誕生が決定的に(4)
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SNSI・副島国家戦略研究所 中田安彦
ヒラリー候補のメールサーバー問題については米下院の複数の委員会で、9月4日の米祝日前に公開されたFBIによるヒラリー候補とその側近の聴取の記録の中で、機密情報として公開できず黒塗り(アメリカの場合、黒ではなく白塗りだが)になった部分の議会への公開を要求する動きがある。これと合わせて、7月にヒラリー候補不起訴が決まった直後に証言を求めたFBI長官を、再度、委員会に招致しようとする動きも進行中だ。FBI聴取記録の公開で、ヒラリー候補は聴取の際に、なんと39回も「記憶にございません」と繰り返したことがすでに報じられている。しかも、この記憶にない部分、彼女が12年末に脳震とうを起こして昏倒した後遺症ではないかともトランプ陣営から言われており、真偽のほどは別にして、彼女の大統領としての資質に疑問符をつきつけている。
また、15年3月に彼女が私的サーバーを使ってメールをやり取りしていたことが発覚してから、12年のベンガジ事件の真相を糾明する米下院公聴会により「保全命令」が出された後に、サーバーのメールを業者に委託して特別なソフトを使って3月末に全件消去したことも聴取録公開により明らかになった。この事実からして何らかの「証拠隠滅」が疑われるのだが、彼女が公聴会で昨年秋に登場して11時間の長広舌を振るった時の説明と、事実関係が食い違っているにもかかわらず、彼女はFBIの捜査の結果、起訴されなかった。ビル・クリントンが直前に司法長官と面会していたことから、暗に圧力をかけたのではないかというふうにも言われた。これはおかしいだろうと、下院共和党が目下全力で手をつくして真実を明らかにしようとしている。更に90年代からクリントン一家を目の敵にしてきた市民団体「ジュディシャル・ウォッチ」が、ヒラリー候補のよる署名入りの宣誓供述書の提出を裁判所に命じさせることに成功したため、この供述書も近々提出されることになるだろう。また、民主党大会前に民主党全国委員会の内部文書をネット上に公開したジュリアン・アサンジの「ウィキリークス」によるヒラリーメール(おそらくは黒塗り部分なしの無修正)の公開も目前に迫っている。ここにはベンガジ事件についての相当際どい内容が含まれると言われている。
そのような中で、ヒラリー候補は9月29日に予定される候補者討論会(これを入れて全3回)に臨まなくてはならない。これまでの選挙戦の動向から、トランプについては普通の候補者なら吹き飛びかねないスキャンダルがあっても、まるで打撃を受けないことがわかった。不死身の不動産王は、民主党大会直後に行ったイスラム教の米兵遺族への筋違いの批判や、8月中旬の「オバマ、ヒラリーはテロ組織ISISの創始者だ」という演説で、もはやダメかと思われていたが、そのあと、彼は選対幹部を総入れ替えして、8月31日にはまさかのメキシコ大統領との会見を果たし、失速寸前から一気に巻き返した。
ヒラリー候補のスキャンダルが公職の地位を利用したと言われても仕方ないものである反面、トランプの問題は多くは差別発言や、「トランプ大学」という投資セミナーの客との間の訴訟など商売上のトラブルがほとんどだ。問題の質が全く違う。体調不良の中、これらのスキャンダル追及が続くわけだ。民主党全国委員会は規約に基づいて候補者差し替えも検討しているようだが、もう9月中に期日前投票が始まってしまうこともあり、候補者名簿の差し替えももはや不可能だ。
しかし、これまで述べてきた細かいことを抜きにしても、あの卒倒映像を見れば、もうヒラリー候補は終わりだ、というほかないのだ。日本の政治家でもすでに「トランプ大統領」を覚悟する発言がでている。例えば、民進党きっての親米派としてよく知られ、ヒラリー支持派のリチャード・アーミテージ元国務副長官とも交流のある長島昭久衆議院議員でさえ、ツイッターで、卒倒映像について「この映像は衝撃的だ。これまで幾度となく希望的観測を述べてきたが、いよいよ本格的にトランプ大統領誕生に備えなければならない」(9月12日)と述べている。
トランプ大統領誕生は、安倍晋三首相にとってはプラスになる側面もある。ヒラリー候補やオバマ大統領、主流派メディアがプーチン・ロシア大統領を目の敵するのに対して、トランプ候補がロシアのプーチン大統領やロシアに対して融和的であることはすでによく知られている。解任されたが選対本部長を務めていたポール・マナフォートはロシア人脈の持ち主だった。安倍首相は年末にプーチンの訪日を控え、北方領土問題とシベリアの経済開発をてこにロシアとの関係を強化しようとしている。中国とロシアが日本に対抗してくるのを阻止するためにロシア側の懐に飛び込もうという戦略だが、ヒラリー政権になっていれば、この戦略はジャパン・ハンドラーズの圧力で阻止させられるのは必至だっただろう。安倍首相の掲げる「戦後レジームからの脱却」は、アメリカの情勢変化があって初めて実現する。これまで「アメリカのエージェント」と呼ばれた官僚・政治家たちも、心を入れ替えて、腹を据えて、日本の自立戦略のために動き出す時だ。時は来た。この機を逃してはならない。
(了)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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