大人として、デモクラティックに生きる!(5)
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専修大学法学部 教授 岡田 憲治 氏
可能な限り「良きこと」を共有し社会を運営
――私たちにとって、民主主義(デモクラシー)はとても大事なものであることが理解できました。では、私たちは、それを維持していくためにどのようにしたらよろしいのでしょうか。
岡田 色々とありますが、ここでは4つの重要なことをお話します。1つ目は、「純粋合戦を止める」ことです。デモクラシーは、「己の生活や人生に関わることについての決め事には一言物申す」という、コミュニケーションの運営技法です。そのため、その決め事に、同じ考えや切実な主張を共有する友人たちの声がなるべく多く反映されるよう努力する必要があります。とにかくたくさんの友人を作らねばなりません。
私たちが政治的な選択をする際によく陥るのが「純粋合戦」です。端的に言えば、各々が政治的な主張をする際に、相手を非難する根拠を「目的が汚れている」、「安易な妥協をした」あるいは「動機が不純である」などとしてしまうやり方です。しかし、相手の言うことをその純粋度で評価し、それを根拠に対話をしても、手をつなぐ友人はあまり増えません。デモクラシーは複数の人間が協力し合いながら、可能な限り「良きこと」を共有しつつ社会を運営していく、そのための社会技法だからです。
使い道によって評価されなければなりません
岡田 2つ目は、「言葉を豊かにするのにかかる費用はケチらないこと」です。私たちの社会では、政治に向かい合う人々は、根拠もなく漠然と、「政治は信念を持ってやるものだから、なるべく金を使わないでやる方が偉い」という清貧の思想が刷り込まれています。本来は「金を使ったこと自体」ではなく、その使い道によって評価されなければなりません。清貧主義の一番困ったところは、政治の評価を道徳的次元に引き込んでしまうことです。しかし、「清いが何も結果を出せない人」ならば、それは政治家として無能ということになります。
民主政治を生きる有権者にはやらなければいけないことがあります。それは、友人を作り、仲間を増やして、自分が世界に対して持つ理念や現実設計や展望を「言葉」にして、たくさんの人に印象付けることです。そのためには、「言葉」、大量の「言葉」が必要です。これはデモクラシーの基盤中の基盤です。言葉に必要な経費を惜しんで、「物言わぬ候補者」、「何かを忖度して言葉の減量をするメディア」、「沈黙する有権者」の3本柱が揃うと、その時の暗黒は金権政治と違いなくなってしまうからです。
忖度の決定的な特徴は言語を介さないこと
岡田 3つ目は、「空気ではなく言葉に」縛られねばならないということです。色々な意味で、民主政治の足を引っ張るのが、法やルールではなく、「空気」による支配です
その代表的なものに「忖度(そんたく)」というのがあります。忖度とは「他人の気持ちを推し量る」ことを言います。この忖度の決定的な特徴は「言語を介さない」ことです。
この忖度が政治の世界ではもちろん、あらゆる業界で頻繁に行われるようになっています。昨今、マスメディア内部で起こっている「不可解な行動の集積」(あからさまに不自然な歪曲報道、露骨なほどの重大事実の無視、そして平然となされる巨悪の黙認など)はまさにこれに該当します。
原因を探っていくと、現場で働く職員には、上からのあからさまな圧力や命令はなく、それぞれの忖度によるものが多いことが分かります。この忖度は、ひとかけらの悪意も政治的野心もないが故に、とてもたちが悪いのです。民主政治は人間が間違えることを前提にしている政治です。そのため、どうしても記録が必要だからです。意中の人でない人を「政治的に」応援する
岡田 最後の4つ目は、「我々の政治は、“よりましな選択”だ」と諦めることです。2014年末に行われた総選挙では、有権者1億人のうち、およそ半数の人々が投票にいきませんでした。そうなった原因は確定できませんが、1つだけ気になることがあります。それは、棄権した人の言う「適当な人がいなかったから」という理由です。なぜならば、政治において最良の選択など永遠に存在しないからです。現実を生き抜く大人は、政治家も含めて、程度の差こそあれ、「汚れて」、「ずるくて」、「小心者で」、「都合の悪いことはすぐ忘れる」、つまり普通の人間です。選挙とは、最良の選択ではなく、「最悪を避ける選択」として、意中の人でない人を「政治的に」応援するという、デモクラシーを守るための技法なのです。
「あなたは間違っていない」と伝えること
――最後になりました。日本の民主主義」(デモクラシー)が、今後健全な発展ができるように読者にメッセージを頂けますか。
岡田 生きている限り、私たちは「政治」から逃れることはできません。それは、「他者」が複数存在する世界において、個人は完全な自立と自律が不可能だからです。その一方で、一有権者としてできることには本当に限りがあり、「「何もできないのではないか」という無力感に襲われるかも知れません。しかし、政治は自分自身が切り拓くというだけでなく、そのために勇気を持って行動している人間を応援することができます。また、応援ができなくても、少なくともその人を孤立させないことはできます。このことを覚えていて欲しいと思います。
たとえば、「不当な理由でバッシングを受けている人」対して「あなたは間違っていない」と伝えることができます。また、直接伝えることができなくても、友達との気軽な喫茶店などの会話で、そのようなテーマになった時、萎縮することなく、「彼・彼女らがやっていることは間違っていない」と声帯を振るわせるだけで、日本社会の民主主義を微力ながら間接的に支えることになるのです。
――本日は、お忙しい中、お時間を賜り、ありがとうございました。
(了)
【金木 亮憲】<プロフィール>
岡田 憲治(おかだ・けんじ)
1962年、東京生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了(政治学博士)専修大学法学部教授。研究対象は、現代デモクラシー思想、民主政治体制、関心領域は、民主政の基礎条件、アジア・太平洋戦争史。著書に『権利としてのデモクラシー』(勁草書房)、『言葉が足りないとサルになる』、『静かに「政治」の話を続けよう』(いずれも亜紀書房)、『働く大人の教養課程』(実務教育出版)、『ええ、政治ですが、それが何か?』(明石書店)
『デモクラシーは、仁義である』(角川新書)、共著として『「踊り場」日本論』(晶文社)など多数。関連記事
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