なぜ所信表明演説における「起立拍手」が問題なのか(中)
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副島国家戦略研究所(SNSI) 中田安彦
このスタンディングオベーションの問題、自民党側でも意見が別れている。谷垣禎一前総裁のグループに属する、佐藤勉議運委員長(前国会対策委員長)は記者団に「自然発生的とはいえ、決していいことではない」と述べたほか、大島理森衆院議長も、「ご着席願います」と抑える側に回った。時事通信によると、翌日の議院運営委員会でも、「今後は行わない」ことを申し合わせたと報じられている。
ただ、安倍首相を支持する側のグループの議員らは意に介さずという様子だ。高村正彦副総裁は、党の役員連絡会で、「スタンディングオベーションをして叱られることがグローバルスタンダードに合っているのかどうか、若い方に検討してほしい」と述べた上で、「民主党政権のとき、民主党議員が鳩山総理大臣の所信表明演説にスタンディングオベーションをした時には、少なくとも自民党は抗議などしなかった」と反論している。
私が知る限りでも、総理が促して、その結果議員が起立拍手をしたという例はない。また、これまでの安倍政権の安保法制や秘密保護法の審議における議事進行の強引さや、様々報じられる自民党議員の暴言や問題発言を見ていると、「自衛官や海上保安官に拍手をしているというより、首相に拍手をしているように見える」という指摘はもちろん、「首相ご自身も本会議場の壇上で拍手をしている姿を見ると、この国の国会ではないんじゃないかという錯覚すら覚えた」という細野氏の批判もあながち間違っているわけではないようにも見える。壇上で拍手をする指導者に応じて議員らが拍手をするというのは北朝鮮の議会ではよく見られる光景だ。
そして何よりも、今回の「演出」が官邸のナンバースリーである萩生田官房副長官の要請に基づく演出だったことが大きい。萩生田氏といえば、2014年末の衆議院選挙の際に、在京のテレビキー局各社に対し、衆院選の報道にあたって、「公平中立、公正の確保」を求める「圧力文書」を送った際に、福井照報道局長と一緒に党副筆頭幹事長として、名前を連ねていた人物だ。この文書は「出演者の発言回数や時間」、「ゲスト出演者の選定」、「街角インタビューなどの映像で偏った意見にならないよう公正を期すこと」などを求めたもので、番組の細部の編集権にまで介入したとして政権に批判的なメディアから厳しく批判された文書だ。
この中で萩生田氏と一緒に名前を連ねている福井氏もまた問題児だ。このスタンディングオベーション騒動があった直後の29日に、所属する派閥の集会で衆院TPP特別委員会理事を務める立場でありながら、「この国会ではTPPの委員会で西川(公也)先生の思いを、強行採決と言うかたちで実現するよう頑張らせていただく」と爆弾発言をした人物だ。アメリカでは大きな批判を浴びているTPPの承認案件は臨時国会の最大のテーマだが、条約の承認には衆議院の優越が働くので参議院での審議を待たずに決まってしまう。現在、自民党は衆院で与党で3分の2を確保しており、数の上では否決は難しい状況にある。そのような中で理事である福井氏が「強行採決」を予告したことになる。これもまた大問題だ。自民党は緩みきっている。スタンディングオベーションそのものの是非だけではなく、今の自民党がどういう政党なのかということを考えた上で、国会での議員の行動は評価しなければならない。
(つづく)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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