200兆円を超える富を生み出す国内油田!(2)
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公益財団法人リバーフロント研究所 研究参与 竹村 公太郎 氏
日本が水力発電に適していることを見抜く
――先生は、水力発電は天から日本列島が授かった唯一の純国産のエネルギーであると言われています。もう少し、やさしく教えて頂けますか。
竹村 私は「日本の山に降る雨がダム湖に貯まり、莫大なエネルギー資源となる」と言い続けています。しかし、ここには難しい学術的論理があるわけではありません。また新しい科学的発見というわけでもありません。
今から1世紀以上前の明治31年(1898年)に来日した、米国のグラハム・ベルは、日本列島が山の多い国土と雨の多い気候であることに気づき、「日本は豊かなエネルギーを保有している」と言い、日本が水力発電に適していることを見抜きました。現在、日本全国すべての都市には川が流れており、しかも、上流にはダムを備えています。このダムの恩恵を活かすことで、水力の恩恵を、全国各地が公平に受けることが可能になっているのです。
「日本を訪れて気がついたのは、川が多く、水資源に恵まれていることだ。この豊富な水資源を利用して、電気をエネルギー源とした経済発展が可能だろう。電気で自動車を動かす、蒸気機関を電気で置き換え、生産活動を電気で行うことも可能かもしれない。日本は恵まれた環境を利用して、将来さらに大きな成長を遂げる可能性がある」
(グラハム・ベルの帝国ホテルで行われたスピーチから抜粋)
ベルは、電話の発明で知られる科学者ですが、地質学者でもあり、来日当時は米国地質学会の会長であり、一流の科学誌『ナショナルジオグラフィック』の編集責任者でした。エネルギーの大きい位置で効率よく集める
日本はアジアモンスーン地帯の北限にあって、さらに列島は海に囲まれています。日本列島は特別に幸運な列島で、ほとんど同じ緯度にあっても、大陸の国々では、日本のように降水量は多くありません。では、なぜ日本は雨が多いからエネルギーが豊富なのでしょうか。
雨のエネルギーは、太陽光や風力など他の再生エネルギーと同じで、石油、石炭や天然ガスなどの化石燃料と比べ、一般的には「エネルギーが薄い」と言われています。つまり、雨のエネルギーはエネルギーを濃くする工夫をしないと、エネルギーとして使いものになりません。ところが日本列島の場合、自然のインフラとも言える「山」という地形がこの問題を解決してくれます。
例えば、東京23区にいくら大量の雨が降っても、海抜が低すぎてエネルギーにはなりません。平らな土地を水びたしにするだけです。ところが、関東なら神奈川県の丹沢山地や東京の奥多摩に降る雨は谷に集まり、相模川や多摩川の水となって流れ落ちます。水源地域の谷には、大量の雨が自然に集められていくのです。しかも、水源地域は海抜が高く、谷に集まった水の位置エネルギーがとても大きいのです。つまり、日本の山岳地形は、アジアモンスーンによる大量の雨を、エネルギーの大きい位置で効率よく集めてくれる装置になっています。日本列島は平均すると68%が山地で、しかも脊梁山脈が走っています。北海道から沖縄まで、太平洋側、日本海側問わず、まんべんなく均等にエネルギーが存在しています。
雨水を効率よく電力に変えるためにダムが必要
――本日のようなお話はもっと早くお聞きしたかったです。3.11直後、再生エネルギー関係など多くの識者にお会いしました。皆とてもいいお話なのですが、時間軸、規模、効率、費用、過去の成功例を考えると、本日のお話を凌駕できるとは思えません。
竹村 それには2つ大きな理由があります。1つは、3.11直後のような、社会が大きく混乱している中でのお話は、さらなる混乱を招くばかりでなく、場合によっては誤解され、「反原発」の旗になりかねないと思えたからです。私は先に申し上げましたように、原発反対でも賛成でもありません。
もう1つは「ダム」という問題です。多雨と山岳地帯は自然が日本列島に与えてくれた恵みです。しかし、雨の降り方は極端に変動し、エントロピーの大きい使い勝手の悪いエネルギーなのです。さらに、日本の地形は急峻で、降った雨はあっと言う間に海に戻り、1泊2日ぐらいしか陸地に居てくれません。このために、大きく変動する流量を平滑化して年間を通して水を利用できるように、あっと言う間に海に戻ってしまう水を貯蔵するために、山岳地帯で位置エネルギーを保つダムが必要なのです。
水力のプロとしての私の義務と考えました
このダムですが、約20年前に、ゼネコン汚職の温床のように言われ「ダムはとにかくダメ」というものすごい逆風が吹きました。当時、私は本省の開発課長、そして反対派の攻撃が最も激しかった時は河川局長の立場にいました。
私は当時から今まで一貫として、「ダムは日本列島に天が与えた唯一とも言える太陽エネルギーの貯蔵庫である」と言い続けています。この事実に限って言えば、当時の反対派の方々も皆分かっていたと思います。ダム反対派の方々とのディスカッションで、何度となく「竹村さん、それだけは言わないでくれ!」と言われたことを今でも思い出します。今回、出版に声をかけて頂き、この事実を、今、日本の人々に伝えることが、数少なくなった水力のプロとしての自分の義務と考えました。
(つづく)
【金木 亮憲】<プロフィール>
竹村 公太郎(たけむら・こうたろう)
1945年生まれ。1970年、東北大学工学部土木工学科修士課程修了。同年、建設省(国土交通省)入省。以来、主にダム・河川事業を担当し、近畿地方建設局長、河川局長などを歴任。2002年、国土交通省退官後、(公財)リバーフロント研究所代表理事を経て、現在は同研究所 研究参与、(特非)水フォーラム事務局長。著書に、ベストセラー『日本史の謎は「地形」で解ける』(PHP文庫)、『水力発電が日本を救う』(東洋経済新報社)など多数。関連キーワード
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