2024年11月23日( 土 )

200兆円を超える富を生み出す国内油田!(3)

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公益財団法人リバーフロント研究所 研究参与 竹村 公太郎 氏

ダムは半永久的にエネルギーを与えてくれる装置

 ――今回は、知られざるダムの真価について教えて下さい。

damu 竹村 ダムはピラミッドをしのぐ圧倒的に強固な構造物です。その理由は3つあります。1つ目は、ダムのコンクリートには鉄筋がないので、鉄が錆びて劣化することがありません。2つ目は、ダムは基礎が岩盤と一体化しています。3つ目は、コンクリートの厚みが桁違いに厚く、ビルの約100倍あります。

 ちなみに、東日本大震災で、本体が壊れたダムは皆無でした。また、阪神・淡路大震災の時、神戸の布引五本松ダム構造物本体はビクともしませんでした。100年近く経った古いダムが、巨大地震にさらされても、まったく大丈夫だったのは、偶然でも、例外でもなく、私のようなダム技術者にとっては当たり前の話です。ダムは半永久的に、純国産でタダのエネルギーを与えてくれるとてつもない装置なのです。

現在のダムの運用は21世紀以降に適していない

 ――とても堅固なダムですが、先生はさらに、「ちょっと手を加えるだけで、現在の水力の何倍もの潜在力を簡単に引き出すことができる」と言われます。どういうことでしょうか。

 竹村 現在、日本の総電力供給量に対する水力発電の割合は9%ほどです。そして、もう巨大ダムを増やす時代でありません。しかし、現在あるダムの潜在的な発電能力を引き出せば、30%まで可能であると私は試算しています。その方策は大きく分けて3つあります。

 1つ目は、多目的ダムの運用を変更することです。現在のダムの運用は21世紀以降に適していません。河川法や多目的ダム法を改正して、運用を変更すれば、ダムの空き容量を発電に活用することができます。このことによって、純国産で全く温室ガスを発生しない電力が金額に直して、年間約2兆円~3兆円分増加します。そして、この増加は半永久的に継続します。仮に100年としても、この法律改正だけで、今後200兆円~300兆円の富が生まれる計算になります

 現在日本のダム湖には、水が半分程度しか貯まっていません。これは、わざわざ貯めないようにしているからです。雨量が多い時期には、ダムから放水して、ダムの空の容量を維持しています。それは、法律で決まっているからです。
 日本のダム造りのベースとなるルールの1つに、「特定多目的ダム法」というのがあり、ここには「利水」(水を利用すること)と「治水」(洪水を予防すること、この範囲値は100年に1度来る洪水の規模になっています)の2つの目的が記されています。ダムにとって利水と治水は矛盾します。この矛盾した2つの目的があるため、両者の折衷案として、ある程度の水は貯めるものの、ある程度は空にしておくしかないのです。

60年経った今は取り巻く環境が全く違います

 しかし、この法律は昭和32年(1957年)にできたものです。私は昭和45年に建設省(国土交通省)に入省しました。先輩たちがダムを造った時は、テレビも普及しておらず、台風進路の予測も十分でなく、道路も整備できていなかったと聞きました。つまり、ダムを自分たちの手で、暗闇の中で、手探りで操作できることを前提(範囲値)としてこの法律はできているのです。あれから60年経ち、私たちを取り巻く環境は当時と全く違います。

 今は、気象情報を見れば、台風がいつ接近するかは1週間程度前には分かります。大雨が降る3日から4日前に予備放流すれば、十分に洪水に対処できます。洪水予防であっても、普段からダムを大きく空けておく必要はありません。天気予報の精度が今より格段に悪かった約60年前のルールを今でも守っているのはまったくおかしいのです。

 ダムの潜在力を活かす鍵を握っているのは「河川法」という法律です。河川法は過去2度改正されています。今は3度目の改正を行うべき時です。河川法第1条を改正して、例えば「河川のエネルギーは最大限、これを活用しなくてはならない」という文言を付け加えれば、国家として、河川のエネルギー利用に積極的に関与することを宣言することになります。この改正は急がれます。完全に純粋な国産エネルギーである水力発電を無駄にすることなど、このエネルギー枯渇の時代に許されるはずがないからです。

水は無限にあり、他の発電に比べ圧倒的に安価

 2つ目は、嵩上げです。嵩上げとは、既存のダムを高くすることを言います。例えば、高さが100mのダムがあるとします。もし、このダムをあと10m高くすれば、それだけ多くの水が貯められ、水位も10m上がり、発電力の増加につながります。水の位置エネルギーは、その水量と高さに比例するからです。高さ的には、わずか10%の違いですが、電力で考えると単純計算でも発電量は70%も増えます。現実的には、発電能力はほぼ倍増します。つまり、10%の嵩上げはダムをもう1つ造るのと同じことになります。しかも、この費用は同じ規模のダム工事なのに桁違いに安く済むのです。

 エネルギー問題に詳しい人とお話をすると、「日本の地形と気象から見れば、確かに、水力発電は有効だと思います。しかし、結局、水力の電力は高くつくのではありませんか。そういうデータを見たことがあります」言われます。しかし、嵩上げの場合は、水力発電コストのうち、占める割合が最も大きい水没集落への補償(人々の暮らす村を丸ごと水没させてしまうため)、付帯道路や付帯鉄道の費用はすでに支払済みです。ダムは、半永久的に使え、水は無限にあり、しかタダなので、将来にかかかる経費を他の発電と比べた場合、圧倒的に安価になるのです。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
takemura_pr竹村 公太郎(たけむら・こうたろう)
 1945年生まれ。1970年、東北大学工学部土木工学科修士課程修了。同年、建設省(国土交通省)入省。以来、主にダム・河川事業を担当し、近畿地方建設局長、河川局長などを歴任。2002年、国土交通省退官後、(公財)リバーフロント研究所代表理事を経て、現在は同研究所 研究参与、(特非)水フォーラム事務局長。著書に、ベストセラー『日本史の謎は「地形」で解ける』(PHP文庫)、『水力発電が日本を救う』(東洋経済新報社)など多数。

 
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