大ヒットの要因は交流サイトにあり
アニメ映画「君の名は。」は、美しい映像表現で知られる新海誠監督が手がけた。新海監督の作品は、一部のファンから熱烈な支持を集めていたが、一般的な知名度は低かった。これまでの興行収入は1億円前後。東宝は、これほど大ヒットするとは想定していなかったという。
記者会見した太古伸幸常務の一問一答が、日本経済新聞電子版(10月17日付け)に掲載された。大ヒットした要因をこう分析している。
〈「君の名は。」は試写会をたくさん開いて、SNSで評判が拡散した。SNSの口コミで客を呼び込むという点では、現時点では理想的なヒットのあり方だ。SNSの威力が発揮された〉
2010年代から、スマートフォン(スマホ)やSNSが普及したことが大きい。SNSとは、インターネット上の交流を通して、個人同士のコミュニティーを容易にする交流サイト。フェイスブックやLINE、ツイッターなどがSNSになる。
スマホ育ちの若者たちは、SNSで「楽しみ」を共有することが当たり前になった。SNSを通じて「君の名は。はオススメ」と口コミで広がり、これまで映画館に行ったことのない層まで映画館に足を運んだわけだ。
「君の名は。」は、地方の女子高生と東京の男子高校生が、夢のなかで身体入れ替わる体験を通じて引かれ合っていくストーリー。映画のヒロインが住む町のモデルとされる飛騨・高山には、SNSの呼びかけで、たくさんのファンが「巡礼」に訪れているそうだ。SNSさまさまである。
アニメ、自主企画、SNSの3点セット
「君の名は。」の大ヒット報道を見て、「日本の映画はアニメしかないのか」と慚愧に堪えない向きは多かろう。1957年から60年の4年間は、入場者数は10億人を超えていた。邦画の黄金時代だった。
絶頂期にこそ、凋落の萌芽が隠されている。これは歴史の法則だが、映画ほど身をもって、これを示した産業はない。娯楽の王者だった映画は、「電気紙芝居」と見下していたテレビの登場で、あっという間に娯楽のチャンピオンから滑り落ちた。
2015(暦年)の入場者数は1億6,663万人で、興行収入は2,171億円(日本製作者連盟の日本映画産業統計)。映画の斜陽化によって、低コストの映画づくりが主流になった。
映画は、当たり外れが大きい。そこでリスクを分散させるために、製作委員会方式に移行した。製作委員会には、映画会社のほかに、テレビ局や広告会社や雑誌社などが出資する。
興行収入が12億円とすると、半分の6億円が興行主(映画館)、2億円が配給会社の取り分。残り4億円を製作委員会に出資している企業が、出資比率に応じて分け合う。
「君の名は。」は、自主企画作品だ。製作委員会に分け与えていた分が、自社の取り分になる。しかも、SNSを通じて口コミで広がっていったので、広告宣伝費を抑えることができた。東宝が最高益を更新した最大の要因だ。感動と情報を共有・拡散するSNSの活用がヒットの決め手になった。
アニメ、自主企画、SNSの3点セットが、東宝の成長戦略と言えそうだ。
(了)
【森村 和男】