トランプ新大統領がワシントン政治をひっくり返す!(後)
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副島国家戦略研究所・中田安彦(2016年11月9日)
今回の大統領選挙は、「選挙というのはいかに選挙CMに高い金を使うかが大統領選挙の勝敗を握る」という従来の考えもぶち壊した。トランプは予備選挙を自前の資金で戦い、本選挙でもヒラリーのように金持ちを対象にした資金集めをほとんどやっていない。そんなことをする暇があるなら大衆の前に立つ、という選挙戦だった。金持ちの資金提供主の前での発言は、資金提供者に媚びることになりがちなので、口が滑って失言が出やすい、ヒラリーも資金集めパーティでトランプ支持者を「嘆かわしい人々」(deplorables)と罵倒したことでトランプ支持者の怒りを買った。ポピュリストであるトランプは、そういう煩わしいことを嫌った。それが中間層の大衆、いわゆる「サイレントマジョリティ」には受けた。そういう口は悪いが、自分たちのことを気にかけてくれる、ヒラリーのような「二枚舌」ではない候補者に一票を託した有権者が圧倒的に多かったということだ。
トランプは、アメリカ政治史の上では、いわゆるアンドリュー・ジャクソン大統領(第7代)の系譜にある大統領となる。20ドル札の顔の政治家だ。私が3月にNetIB-Newsに寄稿した中で、政治学者のラッセル・ミードによる大統領の政策思想の4類型を紹介しておいた。それに付け加えれば、ヒラリーは中央集権で銀行家主導の思想(つまり、東部エスタブリッシュメント)を体現する、ハミルトニアン(アレクサンダー・ハミルトン初代財務長官の系統)に相当する。ジャクソンというのは、猟官制度(選挙によって政権を獲得すると、政権運営に必要な公職を政権の支持派で固めるために公務員の入替を行うこと)をアメリカで確立させた政治家だ。これまでは、エスタブリッシュメントという人材供給組織があり、それが回転ドアのように政権入りと在野生活を繰り返すことが普通だった。トランプ政権になると、猟官制度に基づいて、今までは日の目を見なかった人材が次々と政権に登用される可能性がある。ジャクソン初当選は1860年代の南北戦争の前の1828年。アメリカ政治は大きな逆転をしたといえる。
トランプ政権がどう形作られていくのか。今のところはっきりしたことは言えない。まず、政権移行チームにクリス・クリスティというスキャンダルに巻き込まれている現職のニュージャージー州知事、元ニューヨーク市長のルディ・ジュリアーニなどのキーパーソンの名前が上がっている。国家安全保障担当補佐官か国防長官には、ロシア人脈を持ち、ヒラリーなどのネオコン派に批判的なマイケル・フリン将軍(国防省情報局(DIA)前局長)がつくと見られている。日本の政治家では民進党の長島昭久元防衛副大臣、自民党では石破茂元防衛大臣が会ったことがあるようだ。シンクタンクでは保守系のヘリテージ財団が政策立案に関わるという話が伝わっている。いわゆる「ジャパンハンドラーズ」が一線から退くのであれば、日本の外交にも転機が訪れる可能性が高い。まあ、今回はこのくらいにしておきます。
(了)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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