2024年11月26日( 火 )

自営業者の没落(前)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)

 韓国経済は不況に喘いでいる。輸出、内需が共に低迷しているなかで、政治まで混迷していて、韓国経済の未来に暗い影を落としている。
 そのようななかで、韓国経済において、リスクが一番懸念されているのは、やはり家計負債である。と言うのは、韓国経済は低成長が定着し、成長が鈍化しているし、不況が続いていて、むしろ負債だけが増加しているからだ。韓国の家計負債は、今年中に1,300兆ウォンを上回るとされている。
 問題なのは、金額もさることながら、増加スピードの速さと負債の質である。韓国の家計負債は、アジア通貨危機の前までは、186兆ウォンに過ぎなかった。ところが、2000年代の中盤に不動産ブームがあり、住宅担保ローンが急激に増加して家計負債は大きく膨らむことになった。さらに直近の15年と16年の2年間は、家計負債が急ピッチで増えている。所得の増加率は2%~3%にとどまっているのに、家計負債は年11.2%のペースで増加しているので、いかに負債の増加スピードが早いかがよくわかる。
 最近、韓国政府でも家計負債を抑えるための対応策をいろいろと打ち出している。それにも関わらず、なかなか家計負債の増加は止まらない。

office03min 韓国で、家計負債とともに深刻な問題になりつつあるのは、自営業者が抱える負債である。
 韓国の自営業者は、約600万人~700万人いると言われている。ギリシア、トルコのような観光産業に依存している国は、自営業の比率が高いが、韓国はある程度経済規模を持っているにも関わらず、自営業者の比率が高い。OECD加盟国の平均的な自営業率は15.4%だが、韓国の自営業者比率はその2倍くらいである。

 自営業者の比率も問題だが、自営業者が抱えている負債にも注目が集まっている。自営業者の負債は、家計負債に含まれていない。
 家計負債は、住宅などを担保に銀行からお金を借りるが、自営業の場合には、事業を信用にして金融機関から融資を受ける。韓国では会社を辞めると、再就職がなかなか難しい。そのため会社を退職した人は、自営業を営むことになる。自営業を始める際の資金として、会社から退職金として受け取った1~2億ウォンと、それだけでは足りないので、通常は銀行から2~3億ウォンのローンを組むことになる。現在、そのような負債は企業負債に入っている。
 ところが、不況が続くと、一番先に打撃を受けるのは自営業である。去年だけでも自営業を廃業した人は5万人で、自営業者は苦境に陥っている。ところが、韓国人は面子を大事にするため、売上が激減しても店を畳まずに営業を継続する場合も多い。その結果、赤字を埋めるためにまた借金をすることになり、負債だけが膨らむことになる。その悪循環が起きている。

 その結果、自営業者の負債は約250兆ウォンに上っている。この250兆ウォンは、家計負債の統計には入っていないが、実際は家計負債なのである。

 これには、2つの問題が存在する。1つ目は、所得が発生すれば負債は何の問題にもならないが、実際は低成長と不景気で収益の確保が厳しい状況である。自営業の平均の月間収入はわずか110万ウォンという統計すらある。とくに、融資の40%ほどは不動産業、賃貸業などに集中しているが、不動産景気も低迷しているので、これが家計負債破裂の導火線になる可能性は十分ある。
 2つ目に、家計負債があるうえに自営業負債を抱えているので、言ってみれば債務者は実は多重債務者であり、これが家計負債の深刻さの本質なのだ。
 上記の話でわかるように、家計負債の実際の金額は1,600兆ウォンなのである。

(つづく)

 
(後)

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