一級建築士免許裁判、控訴した仲盛昭二氏に訊く(3)~示されない根拠
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国が提出しない工学的根拠
――異なるプログラムで行った再現計算により、一級建築士免許を取消処分としたということですが、なぜ、国は、設計当時と同じプログラムにより再現計算をしなかったのでしょうか。
仲盛 14物件の設計当時の構造計算プログラムであるSS1(改)は、ユーザーが後継プログラムSS2に切り替える際に、旧製品であるSS1(改)はメーカーに返却しなければならなかったため、SS1(改)を所有している人や会社は極端に少ないと思います。しかし、SS2を購入しなかった方も稀に存在しているかも知れません。
私たち民間人が、SS1(改)の所有者を見つけることは物理的に不可能ですが、国の力を以ってすれば、容易に見つけられるはずです。しかし、国は、なぜか、14物件の設計当時のプログラムSS1(改)を探すことなく、あえて異なるプログラムを使用して、安易に再現計算を行い、免許取消処分にしたということです。――再現計算において数値が異なっていることを、免許取消処分の理由とする、工学的根拠は示されているのですか。
仲盛 一級建築士免許取消処分の時点では、工学的根拠資料は示されていませんでした。処分の前に開かれた聴聞においても、処分取消請求訴訟を起こした後も、処分を判断した工学的根拠のコピーを提出することを求めていましたが、提出されることはありませんでした。
その代わりなのか、国は、裁判が開始された後、「推測計算書」というものを民間に外注して作成しました。なぜ、免許取消処分を判断した際の根拠のコピーを提出せずに、裁判開始後に、わざわざ、民間人に外注して根拠資料を作成するのか、不思議でなりません。後付けで、あわてて推測計算書を作成しなければならないということは、処分を判断した時点で、根拠が存在していなかったと考える以外に説明がつかないと思います。
裁判開始後に、後付けで作成された「推測計算書」は、時系列的に整合しておらず、処分の根拠として、著しく信用性が低いと言わざるを得ません。――国が作成した再現計算書や推測計算書は、適切な内容になっているのですか。
仲盛 国が提出した「再現計算書」および「推測計算書」は、日本建築学会の鉄筋コンクリート造構造計算規準(RC規準)に規定されている、柱と梁の接合部の検討が行われていない不完全な計算書でした。検討を行わなかった理由は明らかになっていませんが、国側に、それを明らかにできない何か不都合なことがあるのかもしれません。
また、国が提出した再現計算書および推測計算書は、一次設計(震度5強程度での検討)の部分のみであり、二次設計(震度7を想定、保有水平耐力計算)の計算書が欠落しています。この点も、裁判審理において、再三、「二次設計の計算書のコピーを提出すること」を要求しましたが、現在まで、提出されていません。
「14物件の構造上の安全性は確認できている」と、国は説明しています。「構造上の安全=耐震強度」であり、二次設計を行わなければ、耐震強度を求めることはできません。14物件の安全性を確認するために二次設計まで行なわれているはずなので、その計算書のコピーを提出して欲しいという、ごく簡単な要求さえ、国は、無視し続けています。国は、「偏心率の差」を問題としていながら、偏心率が大きく影響する二次設計に関して、計算書のコピーの提出を頑なに拒み続けているのです。――柱と梁の接合部の検討は、それほど重要なことなのですか。
仲盛 日本建築学会の鉄筋コンクリート造構造計算規準(RC規準)において、柱と梁の接合部の検討が規定されています。この規定は、14物件の設計当時から存在しており、当然、検討すべき項目であり、今現在、建築確認を申請した物件において、この検討が省略されていれば、接合部の検討をするよう、必ず求められます。そして、この検討を行った場合、検討しない場合と比べ、柱や梁の断面(特に梁の幅)を相当大きくしなければならなくなります。つまり、既存の建物であれば、梁幅が不足しているという状態になってしまうのです。
14物件の設計当時の構造計算プログラムでは、接合部の検討に対応していないバージョンもあったようです。また、前述したように、建築確認審査が現在ほど厳格でなかったため、接合部の検討に関して、審査上の指摘が出されないこともあったかもしれません。しかし、国が「再現計算」や「推測計算」を行ったプログラムは、接合部の検討をできるプログラムであり、建築確認申請にともなう構造計算において接合部の検討を要求している本家本元の国が、重要な検討事項である「柱・梁接合部の検討」を省いていることは、「偽装」と受取られても仕方ありません。
(つづく)
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