2024年12月23日( 月 )

ドナルド・トランプ新大統領の閣僚人事のキーマンは誰か(前)

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副島国家戦略研究所・中田安彦

 米大統領選挙でドナルド・J・トランプがアメリカの次期大統領に当選してから一カ月経ち、新政権の主要閣僚人事も徐々に固まってきた。主だった閣僚人事は11月末のアメリカでの感謝祭休暇を前後して相次いで発表されており、12月9日現在で主要閣僚のうちまだ決まっていないのは、国務長官職のみである。トランプがプロデューサーを務めるNBCテレビの「アプレンティス」のように、トランプがニューヨークの居宅のあるトランプタワーや休暇中のニュージャージー州のゴルフコースのクラブハウスに閣僚候補たちを呼び寄せて「面接」を重ねる様子は、ニュース番組で継続して報道された。

usa まずいち早く、トランプは首席補佐官として、共和党全国委員長であったラインス・プリーバスを指名した。同時に選対責任者だった、右派系ニュースサイト「ブライトバート」の元トップのステーブ・バノンを上級参謀に起用した。議会に人脈を持つプリーバスの調整力と、政権の戦略家としてのバノンの情報発信力に期待したようだ。オバマ政権でも選挙中にストラテジストを担当した、デイヴィッド・アクセルロッドを上級顧問として起用した前例があるが、差別主義的と批判されてきたニュースサイトのトップのホワイトハウス入りには世界が仰天した。無論、バノンは単なる差別主義者ではなく、ゴールドマン・サックス出身のビジネスマンだ。世論動向を見極めるプロとして認められたのだろう。

 続いて、11月18日に、司法長官として、大統領選挙の最中からトランプを支援してきたジェフ・セッションズ上院議員が、国家安全保障担当補佐官にはロシアのプーチン大統領に好意的なマイク・フリン元将軍(元国防情報局長)が、CIA長官にはマイク・ポンペオ下院議員を指名すると発表された。セッションズは不法移民に対する厳しい姿勢で知られており、また、フリンやポンペオは、ネオコン派ではないが、イスラム原理主義のテロ打倒に力を入れると見られている。フリンはロシアのプーチン大統領ともつながりがあり、ロシアに批判的なヒラリー・クリントンを支持していた安保関係者からは評判は悪い。トランプ政権とオバマ政権の大きな違いは、テロとの戦いでロシアと積極的に協調するところにある。続いて、国際社会に対する「顔」である国連大使には、マルコ・ルビオを大統領選挙で支援した、反トランプ派のインド系の女性であるニッキー・ヘイリー(サウスカロライナ州知事)を起用し、選挙戦の対立から融和へのメッセージを打ち出した。

 これに先立って11月11日には、閣僚人事の調査を担当する政権移行チームの大幅な人事異動が行われ、大統領選挙期間中に責任者だった、ニュージャージー州のクリス・クリスティ知事が降格され、副大統領となるマイク・ペンスが取って代わった。報道ではクリスティ知事が抱える政敵に対する過去の嫌がらせのスキャンダルが裁判沙汰になり、側近が有罪になったことで評判が下がることをトランプは嫌がったと言われたが、他にも幾つかの理由がある。一つは、クリスティが集めてきた政権移行チームのスタッフにはロビイストが多く含まれていたことだ。そもそもトランプは有権者に対して「ワシントン政治の打破」を訴えて当選し、政権公約としてロビイストを厳しく規制すると言ってきた。クリスティに対する粛清は公約の「有言実行」だったと言える。また、別の理由として、トランプの長女イヴァンカの夫である、不動産・メディア業界人のジャレッド・クシュナー(報道では中東特使としての政権入りが取り沙汰されている)の父親をかつて脱税と不正献金で追求した検事がクリスティだったことの遺恨が絡んでいるという。選挙期間中から義父の良きアドバイザーになっていたユダヤ系財界人のクシュナー、は政権移行チームの執行委員会のメンバーであり人事に強力な発言力を持つ。

 移行チームの執行委員会メンバーから、財務長官に指名された、スティーブン・ムニューチンは、バノンと同じくゴールドマン・サックス出身者(父親もゴールドマン・サックス出身だった)だが、ヘッジファンド経営者として住宅ローン会社をサブプライム危機のあとに、サブプライム危機で大儲けした投資家のジョン・ポールソンや、ヒラリー陣営の財界人であるジョージ・ソロスと共同で買収したことなどで知られる。ただ、ムニューチンが変わっているのは「マッドマックス:怒りのデスロード」などの有名なハリウッド映画のプロデューサーとしても名を連ねているところだ。ただ、ムニューチンはトランプ選対の財務責任者として名前が浮上するまでは一般には殆ど知られていなかった。ゴールドマン・サックス出身といっても、クリントン政権のロバート・ルービンやブッシュ政権のヘンリー・ポールソンのように、経営トップを経験したわけではない。とはいえ、ゴールドマン・サックスの関係者が財務長官になることは近年増えている。(注記:さらに、日本時間10日になって、上院での指名承認が必要ないホワイトハウスの国家経済会議(NEC)のトップに現職のゴールドマン・サックスのCFOのゲイリー・コーンの起用が内定したと報じられた)

(つづく)

<プロフィール>
nakata中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

 
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