ドナルド・トランプ新大統領の閣僚人事のキーマンは誰か(中)
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副島国家戦略研究所・中田安彦
トランプはTPP(環太平洋経済連携協定)に離脱する方針を、安倍晋三首相がニューヨークのトランプタワーを現地時間の11月17日に訪問して程なくビデオメッセージで発表した。TPPに代わる二国間自由貿易協定の締結をめざす方針だ。その実現に、通商代表(USTR)とともに重要な役割を担うと見られる商務長官候補には、安倍首相のトランプとの面会の実現の橋渡しをしたと言われる、日本をよく知る投資ファンド経営者のウィルバー・ロスが指名された。元ロスチャイルド銀行のバンカーという経歴をもつ、いわゆる「ハゲタカファンド」の経営者として知られてきた人物だ。
また、財務長官、商務長官以外に対外的には重要性が薄いが米国内的には重要なポジションである保健福祉長官、教育長官や労働長官にはいずれもいかにも共和党らしい、オバマケア批判派、公立校に対する批判派、最低賃金引き上げの批判派の財界人を持ってきた。住宅都市開発長官に大統領選挙を戦ったが、はやばやとクリスティ同様にトランプ支持を鮮明にした黒人の元神経科医のベン・カーソンを指名して論功行賞をはかった。中小企業局長にはトランプがかねてから親交のあり、アメリカン・プロレス団体WWE創業者のビンス・マクマホンの妻で、自身もプロレスのリングでパフォーマンスを披露したこともあるリンダ・マクマホンを指名。上院議員出馬経験もある。トランプの選挙演説はプロレスで受けたビンス・マクマホンによる過激な挑発(もちろんそれは演出)に由来すると言われており、それも彼の政治家としてのスタイルを形作っている重要な要素だ。プロレスビジネスでの成功をアメリカでのベンチャー育成に役立てるという意図だろう。
これらの人事からわかることは、財務長官と商務長官以外の経済や福祉政策絡みの人事では、かなり共和党に配慮したように見えるという点だ。ここで注目すべきはあるシンクタンクの影響力だ。ブッシュ政権ではアメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)が、オバマ政権ではヒラリーの選対本部長をしていたジョン・ポデスタが設立した「アメリカ進歩センター」が人事に影響力を持っていたと言われるが、どの政権もシンクタンクの影響を受けるのがアメリカ政治の特徴だ。
政治専門紙の「ポリティコ」の報道によると、トランプ政権移行チームに大きく影響力を行使しているのは、シンクタンクのヘリテイジ財団だという。ヘリテイジは1973年に設立されたレーガン政権のバックにもなったシンクタンクであり、ビール会社のクアーズの創業者一族やメロン財閥の一人であるリチャード・メロン・スケイフといった保守財界人によって設立された。現在は投資会社のルネサンス・テクノロジーを設立した共和党の資金源である財界人のロバート・メーサーの妻のレベッカが理事を努めているが、メーサー一族はトランプを熱心に支援してきた財界人の一人だ。メーサーはテッド・クルーズ上院議員をもともと支持していたが、トランプ支持に鞍替えし、選対本部に事実上のスポークスウーマンとなった政治コンサルタントのケリーアン・コンウェイと前出のバノンを幹部に起用するように働きかけたという。他にも選挙ではトランプを積極的に支持しなかったリバータリアン系の財界人のコーク兄弟の影響も見え隠れしている。「既得権益」の打破を唱えているものの、共和党系財界人の影響力は否めない。トランプ政権の経済政策はウォール街主導ではなく、ウォール・ストリート(金融業界)とメイン・ストリート(それ以外の財界)の意見を取り入れ、さらにトランプの持論である大規模なインフラ投資を実現していくことになりそうだ。
(つづく)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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