2024年11月23日( 土 )

ハゲタカファースト安倍政治の打破(2)

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政治経済学者 植草 一秀 氏

反グローバリズムのうねり

 3つのミステリーの背後にある事象は「反グローバリズムのうねり」である。英国民のEU離脱、米国民のトランプ氏選出、そして、TPPに対する世界的な強い風圧。このすべての底流に流れる基調が「反グローバリズムのうねり」なのである。

 グローバリズムとは、世界経済を支配する超巨大資本が、世界市場を統一し、世界市場からの収奪を極大化するための運動である。これをけん引しているのが強欲巨大資本=多国籍企業、いわゆるハゲタカ資本である。

 市場原理、社会保障制度の切り捨て、規制撤廃、民営化等の手法を基軸とする経済政策戦略は、IMFや世界銀行、米国財務省とホワイトハウスの共通戦略であるとして、米国の経済学者ジョン・ウィリアムソンが1989年に「ワシントン・コンセンサス」という言葉で表現した政策と基本的に同一である。

 ワシントン・コンセンサスに基づくグローバリズムの運動法則、経済政策パッケージは「新自由主義経済政策」と表現されることも多い。この政策戦略が際限のない格差拡大、1%の富裕層とそれ以外の99%との対立を深めてきたことは紛れもない事実である。

money-min とりわけ、08年から09年にかけて世界経済を襲ったサブプライム金融危機、リーマン・ショックにおいては、巨大金融資本が巨大な公的資金投下によって広く救済される一方で、大多数の労働者は下流に押し流されたまま、一切の救済を受けてこなかった。

 こうした現実を目のあたりにして、世界中で反格差、反1%運動=99%運動が広がりを示してきた。米国では08年の大統領選でアフリカ系米国人初の大統領としてバラク・オバマ氏が選出された。「オバマ氏ならば格差是正を実現してくれる」――と、多くの米国民がオバマ大統領に期待を寄せたのだ。

 しかし、オバマ大統領は完全な期待外れに終わった。08年大統領選でオバマ氏が大企業やウォールストリートから集めた7億5,000万ドル(約750億円)という史上最高額の政治献金は、2期目の選挙では10億ドル(約1,000億円)に跳ね上がり、その大口スポンサーは全米貿易協議会(NFTC)であった。

 NFTCこそ1%勢力、巨大資本=ハゲタカ勢力の権化であり、彼らが米国政治を支配している。オバマ大統領は強欲巨大資本が支配する米国政治の基本構図を変えることができなかった。オバマ氏自身が巨大金融資本=ハゲタカ勢力の支配下に位置していたのだから、この結果は必然だった。

 これに対して、トランプ候補は基本的に自前資金で選挙活動を展開。ハゲタカの支配下にない候補者だった。だからこそ、TPP反対を明言できたのである。だからこそ、強欲巨大資本にとってトランプ氏は大統領に就任させてはならない人物だったのである。巨大資本は、巨大資本のための広報部隊であるマスメディアを総動員してトランプ攻撃を展開した。これが16年米大統領選の異様な光景を生み出す背景だったのである。

 そして、米国でもグローバリズム勢力が推進するTPPに反対する市民の積極行動のうねりが強まった。トランプ氏は大統領就任の当日にTPPから離脱することを投票者との「契約書」に明記した。TPPはTPP戦略のおひざ元である米国でも激しい抵抗に直面した。

 この苦境を打破するために、強欲巨大資本は安倍政権、安倍首相に日本の拙速な批准を命令したのだと考えられる。これが、日本政府の異常で不自然なTPP前のめりスタンスを生み出した背景である。

 日本の主要メディアは強欲巨大資本の命令に従い、TPPに対するネガティブな情報を完全に遮断した。そして、日本の国民は重要な事実を何も知らされぬまま、国権の最高機関である国会がTPP承認案を実質的な審議も行わぬまま、強行採決に突き進んだ。

(つづく)

<プロフィール>
uekusa植草 一秀 (うえくさ かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)=TRI代表取締役。金融市場の最前線でエコノミストとして活躍後、金融論・経済政策論および政治経済学の研究に移行。現在は会員制のTRIレポート『金利・為替・株価特報』を発行し、内外政治経済金融市場分析を提示。予測精度の高さで高い評価を得ている。また、政治ブログおよびメルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。

 
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