2024年11月05日( 火 )

ハゲタカファースト安倍政治の打破(3)

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政治経済学者 植草 一秀 氏

資本主義対民主主義

 資本主義の行き詰まりが際立っている。そして、資本主義が民主主義の壁に突き当たっている。そもそも、民主主義は資本主義の欠陥を是正するために発達してきたという歴史的経緯を背負っている。

 基本的人権という概念は、歴史的な経緯から18世紀的、19世紀的、20世紀的基本権に分類される。それぞれ自由権、参政権、そして生存権という流れで基本的人権が確立されてきた。経済活動を解析する経済学においても、当初は経済活動の自由に焦点を当てた自由主義、古典派経済学が構築されたが、自由主義に基づく経済活動がもたらす弊害が顕在化、深刻化するなかで、「市場の失敗」への対応が重要な研究対象になってきた。

clock 経済活動を市場原理だけに委ねれば、必ず際限のない貧富の格差拡大が進行する。とりわけ産業革命以降、巨大な機械設備を用いた大量生産、経済の重化学工業化が進展し、出資者である巨大「資本」と工場労働者としての「労働」との対立、格差が深刻に広がった。資本主義は必然的に、巨大資本を支配する1%の資本家と99%の一般労働者との二極分化を生み出すメカニズムを内包している。

 第二次大戦後に制定された日本国憲法では、生存権が第25条に明記された。驀進する資本主義が人々の生存さえ脅かすほどの格差を生み出すことを踏まえての法整備であった。欧州でも資本主義の行き過ぎがもたらす弊害に対応する政治思潮が強まり、政策運営においても社会保障の拡充が国家的な課題になった。戦後整備された英国の社会保障制度(国民全員が無料で医療サービスを受けられる国民保健サービス(NHS)と国民全員が加入する国民保険(NIS)によって成り立つ)は、「ゆりかごから墓場まで」と表現されるに至ったのである。

 ところが、福祉国家化が進展すると、今度は逆に行き過ぎた社会保障が経済の活力を低下させるとの新たな主張を生み出した。この主張を背景にして1980年代になると、再び市場原理重視、規制撤廃、社会保障制度の簡素化を求める思潮が広がりを見せたのである。いわゆる新自由主義の台頭である。

 それから30年の年月が経過し、再びこの主張の行き過ぎが強く意識されるに至っている。冷戦の崩壊により東西の壁が崩壊した。旧社会主義世界も新たに資本主義の枠組みの中に取り込まれ、このなかで超巨大資本が世界統一市場を構築して、市場からの収奪を極大化させる動きを一段と強めている。

 資本主義とは突き詰めて考えれば、1%の資本家の利益極大化を追求する運動体系である。これに対して民主主義は貧富の格差にかかわらず1人1票を基本とする体系である。民主主義が適正に機能するなら、民主主義の下での政治は99%の市民の意思を反映するものになる。この民主主義の本質と1%の利益極大化を目指す資本主義の本質は決定的に対立する。
 資本主義と民主主義を対立概念として把握することが必要である。

99%の99%による、99%のための政権を樹立する

 TPPを熱烈に推進する安倍政権は、1%勢力のための利益を極大化させる行動を明確に示している。その政策基本方針は01年に誕生した小泉純一郎政権とほぼ同一である。市場原理、社会保障圧縮、規制撤廃、民営化の基本路線は、ワシントン・コンセンサスと同一であり、いわゆる新自由主義経済政策と呼ばれるものである。

 今の日本には、日本の未来を左右する5つの重大問題がある。原発再稼働、集団的自衛権行使、TPP、沖縄米軍基地建設、そして経済格差・消費税の問題だ。安倍政権は原発推進、集団的自衛権行使、TPP推進、沖縄米軍基地建設強行、格差拡大・消費税増税推進のスタンスを示す。

 これらのすべてが、日本の支配勢力、既得権益勢力の利益極大化を目的としている。現代の戦争は「必然」では発生しない。戦争によって利益を得る軍産複合体の「必要」によって発生している。「戦争」は世界を支配する強欲巨大資本にとって、かけがえのない利益の源泉、収益源なのだ。

 日本を支配する既得権勢力を、筆者は米・官・業・政・電の利権複合体=悪徳ペンタゴンと命名した。政は利権政治集団、電は電波産業、いわゆる御用マスメディアのことだ。ペンタゴンとは五角形という意味である。

 安倍政治とは、「日本を支配する1%勢力のための政治」であり、この安倍政治が日本で跳梁跋扈していることが日本国民の未来に多大な損失をもたらすことが懸念されている。

(つづく)

<プロフィール>
uekusa植草 一秀 (うえくさ かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)=TRI代表取締役。金融市場の最前線でエコノミストとして活躍後、金融論・経済政策論および政治経済学の研究に移行。現在は会員制のTRIレポート『金利・為替・株価特報』を発行し、内外政治経済金融市場分析を提示。予測精度の高さで高い評価を得ている。また、政治ブログおよびメルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。

 
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