トランプ新大統領の率いるアメリカの行方(3)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
同時に、中国との関係についても、新たな展開が期待できそうだ。というのも、トランプは「中国は知的所有権の侵害や人民元の意図的な操作によってアメリカ経済に負担を強いている」と中国を名指しで非難していたが、その一方で、中国が音頭をとって立ち上げた「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」に関しては、「アメリカが日本と同様に加盟していないのは、アメリカにとってもマイナスである」との意向を自らのアドバイザーを通じて明らかにしているからだ。
そして、習近平国家主席が提唱している「中国の夢」を実現する「一帯一路」政策についても、「アメリカが協力することでお互いのメリットが生じる」と中国に理解を示す発言を行うようになってきた。このことを好感した習近平氏もトランプ大統領の誕生を歓迎する意向を示し、政治、経済、通商の分野に限らず、安全保障や軍事の面での協力の道を模索するとのメッセージを発するようになった。米中関係もトランプ氏の大統領就任によって、大きく変貌する可能性が出てきたといえるだろう。日本との関係においても、TPPや在日米軍の経費負担、いわゆる「思いやり予算」のあり方が選挙期間中も大いに話題となったことは記憶に新しい。ヒラリー候補も自らが国務長官時代にはTPP推進の旗振り役を務めていたが、民主党の支持母体である労働組合の反対の意向を受け、「現状のTPPには賛成できない」という意向を明らかにし、安倍政権を驚かせた。
同じようにトランプ候補も自分が大統領になれば、「就任した初日にTPPからの交渉離脱を宣言する」とまで明言。トランプ氏は「アメリカ経済がここまで力を失い、多くの国民が雇用不安や医療保険にも加入できないまでに厳しい事態に追い込まれた背景にはアメリカ企業が法人税などの安い海外に続々と流出し、外国からは安い労働者や製品が雪崩を打って入ってきたことが原因である」と主張。仮にTPPに加盟すれば、「状況はより一層悪化する」と受け止め、TPP反対の急先鋒に立っている。果たして、2017年1月20日の大統領就任式典で、どのような決断を明らかにするのだろうか。● ● ●
トランプ大統領の経済再生計画の中身はどのようなものか。そのカギを握るのは、中国を含むアジア・太平洋地域との信頼関係にあるだろう。「アメリカ第一主義」を掲げたトランプ氏だが、アメリカ経済は日本経済と同様、急成長を遂げるアジアとの連携なくしては維持できないはずだ。
アメリカ抜きのTPPでは他の交渉参加国も「話が違う」とばかり、交渉離脱に動く可能性もある。少なくとも、不透明感の増すTPPに固執せず、新たな地域間の経済連携の道を探る動きが活発化するに違いない。オーストラリアやニュージーランドでは、既にそうした予兆が見られる。中国もそうした動きを先読みし、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)といわれる、より緩やかな経済連携構想を進めている。
実は、このTPPの交渉で大きな経済的、また通商上の利益を確保しようと動いてきた国の1つがベトナムである。日本では注目されていないが、ロシアなどはベトナムに自動車工場を建設し、ベトナムからアメリカに自動車を無税で輸出する計画を進めていたほどだ。(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。関連記事
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