2024年11月22日( 金 )

トランプ新大統領の率いるアメリカの行方(2)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

 さて、トランプ新大統領の政権下でアメリカの外交政策はどのように変わっていくのだろうか。例えば、選挙中に最も大きな話題となったのは、イスラム教徒のアメリカ入国禁止という提案であった。確かに、「9.11テロ」の実行犯集団に多くのサウジアラビアや中東のイスラム教徒が加わっていたり、アメリカをはじめ世界各地で頻発するテロの首謀者としてIS(イスラム国)の台頭を許すなど、過激なイスラム思想の信者が起こす事件が頻発している。

911 そうした世界に広がるテロの脅威への対抗策として、トランプ氏はイスラム教徒の入国を禁止するとの考えを明らかにしていた。折から、オバマ政権の下でも、「9.11テロ」の犠牲者の家族が、テロを支援したとしてサウジアラビアの政府に損害賠償の裁判を起こすことを認めるとの判断が下された。その結果、アメリカとサウジアラビアの関係はかつてないほど悪化することになった。
 そのため、大統領選挙期間中もサウジアラビアのアルワリード・ビン・タラル王子はトランプ候補を名指しで繰り返し批判したものである。トランプ候補を「恥知らずな男」「大統領選挙で勝てる見込みはゼロ」と断定し、罵詈雑言を投げつけていた。ところが、トランプ氏が次期大統領に選ばれると、たちまち態度を豹変させ、なんとトランプ氏のことを「スマートで抜きんでた指導者」だと褒め称え出した。
 そのうえで、「アラブ諸国はアメリカの信頼できる同盟相手として、これからも関係を発展させていきたい」「新大統領と良好な関係を維持したい」と、トランプ氏への祝意のメッセージを送ってきたのである。その変わり身の早さには驚かされる。
 選挙期間中はトランプ氏もタラル王子に対して、「父親のお金を使って、好き勝手にアメリカの政治を支配しようとする不届き男」「何の取柄もない放蕩息子」とやり返していたが、選挙が終わった段階で同王子からのお祝いが届くと、これまた態度を豹変させ、「サウジアラビアとの関係修復と強化に取り組む」とエールの交換を行うことに。
 そして、これまで両者の間で交わしてきた非難の応酬をTwitterなどの記録から削除することになった。しかも、早急にタラル王子がアメリカを訪問し、トランプ氏と会うことも決まったという。注目すべきは、こうしたやり取りの仲介役となっているのがトランプ氏の娘、イヴァンカ氏であるという点である。もちろん、その背後にはトランプ氏が築いてきたビジネスネットワークが働いていることは言うまでもない。過激で先の読めない発言を繰り返すトランプ氏を娘や息子たちがしっかりと支えているわけだ。

● ● ●

 また、ロシアのプーチン大統領もトランプ次期大統領との協力関係の構築に素早い動きを見せている。オバマ大統領がウクライナ問題をきっかけにロシアに対する経済制裁を発動していたため、米ロ関係は厳しい事態に陥っていた。ヒラリー・クリントン氏もその路線を継承する意向を示しており、選挙期間中もプーチン大統領やロシアに対する非難を繰り返していたのである。その非難合戦はエスカレートする一方で、ヒラリー氏は「プーチンは悪魔の使者」とまで言い出す有様。プーチン大統領の側近からは「第三次世界大戦が起こっても、それはアメリカの責任だ」とまで過激な発言が飛び出していた。
 これとは対照的にトランプ氏はロシアと協力することで、ISなどテロ組織との戦いを有利に展開できると主張し、シリア情勢の安定化にもロシアと提携すべきと、柔軟な姿勢に終始。要は、ことあるごとに、ロシアとの関係改善に前向きであるとのメッセージを送り続けていたのである。プーチン大統領も「似た者同士」という感覚で、トランプ氏を歓迎している模様。となると、今後は、ロシアとアメリカとの関係が一気に改善する可能性が出てきそうだ。日本にとっても日米露の3国関係の強化の流れのなかで懸案の領土問題への解決の糸口をつかむチャンスとすべきではなかろうか。

(つづく)

<プロフィール>
hamada_prf浜田 和幸(はまだ かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。

 
(1)
(3)

関連記事