公安調査庁「内外情勢の回顧と展望(平成29年度版)」に見る治安情勢
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法務省の外局である公安調査庁は、毎年「内外情勢の回顧と展望」と題して我が国内外で治安面の脅威と捉えている対象についてのレポートを発刊している。ビジネスの海外展開を考えるうえでの治安情報として、また国内の反社会勢力などの動向をうかがう手掛かりとしても当然有用だ。その一方で、このレポートで取り扱う国や地域の順列や割かれるページ数から「現在日本政府が脅威に感じている勢力は何か」を推し量ることができる。
平成28年の国外情勢として、まず挙げられているのが北朝鮮だ。「国際的孤立の打破を模索しつつ、核・ミサイル戦力の増強を誇示し、我が国、米国など国際社会を揺さぶる」と評価している。昨年2度の核実験に加えては活発なミサイル実験を行う一方で、関係が悪化していた中国との関係の修復を狙っている。また北朝鮮に対して厳しい政策を断行した朴槿恵韓国大統領には厳しい非難や軍事的脅迫を行った。
次に注目しているのは中国である。「海洋権益と領土主権の確保に向けた示威行動を一段と活発化」という評価を下している。習近平政権は国内政治の安定化にほぼ成功し、自国に有利な国際環境づくりに注力している。
このほか、ロシア、中東・北アフリカ、国際テロ(ISISなど)、日本に対する有害活動(サイバー攻撃など)について触れている。国内情勢でまず挙がる勢力は、オウム真理教である。「危険な体質を維持しつつ、活発な活動を展開する」と警戒するように、破壊活動防止法の適用こそできなかったものの、いまだに当局が厳しい監視の目を注いでいることがわかる。
次に「社会的に注目を浴びた事象をめぐる諸団体の動向」として、沖縄の米軍基地移設にかかわる反対運動、平和安全法制関連法(いわゆる戦争法案)の廃止を求める運動、原発再稼働阻止を訴える運動などの市民運動にかかわる諸勢力について取り上げている。
他には、過激派(革マル派、中核派など)、共産党、右翼団体などを取り上げている。今の国際・社会情勢が、日本政府の目にどう映っているかを知るための資料として、このレポートは非常に役に立つといえるだろう。また、巻末資料の「主要公安動向」では、このレポートで触れられている国や諸団体が関係する、国内外で起きたさまざまな政治的事件が年表形式でまとめられている。
「回顧と展望」レポートは、公安調査庁のウェブサイトでも閲覧することができる。
【深水 央】
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