2024年12月25日( 水 )

就任式まで、あと数日。トランプ次期大統領の命運や如何に?(前)

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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

 1月20日に迫ってきたアメリカの大統領就任式典だが、主役のドナルド・トランプ氏の言動はエスカレートする一方だ。何しろ、アメリカ史上最高となる90億ドルを超える就任式のご祝儀を集め、意気揚々。いまだ送金が続いており、このまま行けば、就任式までには100億ドルの大台に乗るかも知れない勢いだ。

 ニューヨークの株式市場も盛況で、トランプ効果は想像以上といえよう。得意のツイッター戦術でメディアの向こうを張り、世界経済を振り回す展開は前代未聞である。

usa ところが、意外なことに、支持者から集めたお金は節約し、派手なお祝いごとは極力抑えて、「アメリカ国民の融和と協調を目指す式典にしたい」と発言。これまた前例を覆し、祝賀パレードのルートも時間も短くすることで、「初日からしっかり仕事を始めたい」と、意気込みを語っている。選挙期間中から繰り返していた「就任初日のTPPからの離脱宣言」は本当になされるのだろうか。言うことも、やることも「大方の予想を裏切ること」に徹しているトランプ氏のこと。どのような常識破りの発言や行動スタイルが飛び出るのだろうか。

 とはいえ、トランプ氏の言動を間近に見てきた顧問のコンウェイ女史に言わせれば「彼の口から出ることをそのまま信じちゃダメよ。無視するのが一番ね」と、身内からは「真に受けないで」とのメッセージも出されている。しかし、一般的にはアメリカの次期大統領の発言を無視することなど簡単にはできない話。

 ツイッターで名指しされた企業などは戦々恐々で、市場も逐一反応しているほどだ。フォードもロッキードも言いなり状態。これでは、日本企業も安閑としていられないだろう。トヨタですら対米戦略を見直す必要に迫られているようだ。

 就任前から想定外の圧力を振るっているトランプ氏。そして、あと数日後には大統領就任式が開催される。この歴史的瞬間に向けても、トランプ氏は前例を捨てる姿勢を鮮明に打ち出している。

 たとえば、歴代の大統領が就任祝賀パレードに際して新たに採用する習わしとなっていた大統領専用車のプレートも、「古いものを使いまわす」と宣言。また、恒例の祝賀舞踏会も、これまでは10カ所も12カ所もで開かれ、新大統領夫妻は何カ所もはしごをし、支持者や高額献金者に愛想を振りまくことが慣例化していたが、今回は「3カ所だけに絞る」とのこと。

 過去最高の資金を集めながら、出費は過去最少を狙う、というから驚きの展開だ。要は、不動産王にして大富豪という玉座に胡坐をかくのではなく、選挙戦での約束を守る庶民派大統領としてのあるべき姿を演出しいたいということのようだ。どこまでケチケチぶりを発揮できるのか。なぜ、そこまで簡素な式典に拘るのだろうか。疑問は尽きないが、そこには根深いアンチ・トランプ運動の暗い陰が感じられる。

 実際、暗殺の脅迫も数多く届いているようだ。本年1月11日の「ニューヨークタイムズ」紙には「トランプ政権が発足する前に、粉砕せよ。人道尊重の立場からファシスト政権の誕生を断固阻止せよ!」との過激な意見広告が掲載された。しかも、この広告には1,000人もの著名な活動家、ジャーナリスト、知識人、エンターテイナー、政治家が署名をしているのである。かつてないほど、国民が分断されていることの証といえるだろう。

 とにかく、首都ワシントンの雰囲気は張りつめており、前代未聞の混乱が生じかねない雲行きが漂っている。何しろ、トランプ新大統領を「自分たちの最高指導者として認めない」というアンチ・トランプ集団が、史上最大級の反対運動を計画しているからだ。有名な歌手やエンターテイナーなども、「やっかいな事態に巻き込まれたくない」らしく、野外での出演依頼を断るケースが続出した模様だ。

 事態を重く受け止めたアメリカの治安当局はFBI、首都警察、シークレット・サービスなど数多くの政府機関が協力し、治安対策に万全を期そうと必死になっている。既に首都ワシントンには全米から7500人を超える警備部隊が召集され、各州から集められた州警察部隊3000人と共に、警備体制の強化に余念がない。

 ところが、就任式典を直前にして、実に意外な人事が発表された。首都警察の長官が突然解雇されたのである。州警察の長官は州知事が任命、解雇するのだが、首都ワシントンに限って、大統領が任命、罷免の権限を有しているのがアメリカだ。現在65歳で、これまで3度にわたり新大統領の就任式典の警備を担当してきたシュワルツ長官は全米から召集された警察官を指揮する立場にあった。

 それがこともあろうに、1月20日の午前0時01分をもって解職するとの通知が出された。本人曰く「理解できない。しかし、軍人でもある自分は上からの命令には従う」。彼にとっての上司とはオバマ大統領である。なぜ、こうした異様な決定が下されたのだろうか。今のところ、この人事については後任も決まっていない。実に不可解なことだ。

(つづく)

<プロフィール>
hamada_prf浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

 

 
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