豊洲市場、ベンゼンよりも危険な建築強度偽装を無視!(前)
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協同組合建築構造調査機構 代表理事 仲盛 昭二
東京都が実施した豊洲新市場の最終モニタリングの結果が公表され、環境基準値の79倍ものベンゼンと、検出されてはいけないシアンが検出されたことが明らかになり、移転の可否判断が難しくなってきました。豊洲新市場の環境の問題は深刻な事態です。仮に、環境的な問題が解決されたとした場合、市場の豊洲移転に関する問題はすべて解決するのでしょうか? 答えは「ノー」です。
以前指摘していたことがありますが、水産仲卸売場棟の構造計算には重大な偽装があることが判明しています。主な偽装(法規違反)を挙げてみます。
1.柱脚の鉄量が必要鉄量の規定を全く満足していない(44%不足)
水産仲卸売場棟の柱は、鉄骨の周囲を鉄筋コンクリートで囲む形状となっています(梁は鉄骨造)。柱に関しては、SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)と認識でき、1階の柱脚(柱の最下部)は地下部分に埋め込まれていない「ピン柱脚」(設計者が計算書にピン柱脚とのコメントを明確に記入)となっています。
この状態では、最も重要な最下階の柱脚に必要とされる鉄量(鉄筋量)の56%の強度しか存在しないのです。「2007年版 建築物の構造関係技術基準解説書」(国土交通省監修)によれば、SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)の1階鉄骨柱の柱脚がピン柱脚である場合、柱脚の鉄量(鉄筋とアンカーボルトの断面積の合計)が、柱頭の鉄量(鉄骨と鉄筋の断面積の合計)と等量以上にしなければならないと定められています。
特別な実験や解析を行った場合は70%まで緩和されるケース(文献)もありますが、それ以外は仕様規定を守るべきとされています。当該建物は重要な仕様規定を無視しているのであり、構造設計担当者は、規定を上回る理論を踏まえた上で設計をしているはずなので、その理論をもって合理的で納得のいく説明をすべきだと思います。
2.保有水平耐力計算におけるDs値(構造特性係数)に関する悪質な偽装
SRC造のピン柱脚の場合、ベースプレートの下部に鉄骨が存在しないので、これより下部の層についてはRC造として計算するよう、「2007年版 建築物の構造関係技術基準解説書(国土交通省監修)」において規定されています。つまり、SRC造の場合だけの特例である「0.05」のDs値の低減が適用されず、結果的に、1階のDs値(構造特性係数)は上階よりも「0.05」高い厳しい数値としなければなりません。この点だけを取り上げても、約15%の耐力偽装となっています。
1階の鉄量が極端に少なく、前述のように、1階の保有水平耐力比が実質(1.07/1.25=)86%しかないので、最も強くあるべき肝心の1階が最も弱い建物となっており、56%×86%(公共建築物に要求されている係数)=48%(法規定の48%)と、法規定の半分以下の強度しかありません。いくら上部が強くても、足元が弱く、安全性が確保できない危険な建物だと言えます。
現在、豊洲新市場については、ベンゼンやシアンなどの環境問題だけが大きくクローズアップされています。東京都としては、築地から豊洲への移転は絶対に実行しなければならない事業ですので、環境問題に関しては、いずれ、「調査方法に誤りがあった」「再調査の結果、安全が確認できた」などと理由付けをし、「環境問題は解決済み」として、なし崩し的に、豊洲新市場への移転を実行することになると思っています。
しかし、環境問題を強制的に終了させたとしても、「耐震強度が不足している」という構造上の大問題は解決されずに残ります。大地震が発生した場合、大きな損傷を受け、人的にも甚大な被害が生じる可能性が高いと言えます。
(つづく)
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