実の子どもに殺される高齢者(後)
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大さんのシニアリポート第51回
「埼玉県によると、2014年度に家族から虐待を受けた高齢者は623人だった。生命や体に危険が及ぶなどとして、家族から引き離す措置をとったのは292人にのぼった」「『認知症日常生活自立度』をみると、『自立度Ⅰ』『自立度Ⅱ』で半数近くを占め、比較的軽い症状の高齢者が虐待を受けている状況がみられた。虐待の種別をみると、身体的虐待がもっとも多く、全体の50.3%を占める。心理的虐待が26.8%、介護・世話の放棄が12・0%と続く」(「朝日新聞」平成28年3月2日)と報告している。認知症の高齢者を介護する家族からの暴力が多い。「介護していた母親を殺した」(同平成28年9月21日)では、介護に不安を抱えていた被告が母親を絞殺。「犯行時心神耗弱状態だった」として、懲役3年保護観察付き執行猶予4年の判決が降りるという介護殺人事件も起きている。
戸崎さんには認知症の症状が見受けられないものの、加齢に比例して病弱である。しかし、認知症の有無には無関係に家族による高齢者への虐待は存在する。しかも、「共依存」という逃避不可能な関係性を余儀なくされている状況下では、自力での解決にはほど遠い。暴力を受けている高齢者が家族との同居が困難と判断されると、「分離」という対応がとられる。介護老人保健施設や医療機関への一時的入院、ショートステイなどへの隔離である。戸崎さんも施設への一時的入所という「分離」をはかったものの、「分離」を受け入れられず帰宅という選択肢を選んだ。「共依存」からの解放は至難の業だ。死に至って、はじめて問題の解決をみるようでは取り返しがつかない。
「家族が親を虐待する事件も珍しくありません。死に至らしめる例も多々起きています。親や高齢者を敬う価値観はすでに廃れていたわけです。本当に驚きました」(同平成26年2月18日)。明治時代の昔から「親への虐待事件」があったと、『「昔はよかった」と言うけれど』(新評論)を出版した大倉幸宏(コピーライター)さんがいう。いつの時代にも親子の関係は普遍なのかもしれない。
ところで、前々回、運営する「サロン幸福亭ぐるり」の常連、中井要蔵・吉乃夫妻(仮名)の認知症検査のことを報告した。呆けていることを認めない夫妻を何とか説得して認知症専門医での受診に成功したものの、医師による診察結果の告知を、「父との過去の問題が未解決なので、その気になれない」と長男が父親との立ち会いを拒否。介護度未認定状況下での認知症者の今後の生活については、身内がかかわる必要がある。長男を説得して結果の告知を聞きにくることには納得してもらったものの、未だにその日にちが決まらない。こうして問題が先送りされ、家族によって見殺しにされていく。父親に対して、「自業自得・因果応報」だと他人はいうかもしれない。でも、こうして戸崎さんも、中井夫妻も捨てられていく現実を目の当たりにするのは、正直辛い。
(つづく)
<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。関連キーワード
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