「帝国の慰安婦」著者に無罪判決 地獄の淵で泥沼が続く(後)
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『帝国の慰安婦』裁判で無罪判決を勝ち取った朴裕河(パク・ユハ)世宗大教授。この判決の源泉となったのは朴教授本人の努力とソウル地裁の理解、そして日韓のハフィントンポストによる手厚い報道だった。その一方で韓国マスコミの日本に対する論調は論者ごとに千々に乱れ、焦点の外れたエスノセントリズム(自民族中心主義)に陥っている。
韓国メディアの報道によると、朴教授は判決後、「名判決だったと思う。合理的に進めてくださった判事に感謝申し上げる」と述べた。同教授は「昨年秋から、韓国は政治的に大きな渦に陥っている。私の裁判は、韓国社会の多くの問題が凝縮されたものと考えてきた。今日の結果は、別の社会に向けた転換点になりはしないかと思う」と自評したという。
この感慨を聞きながら、私は彼女の努力に感嘆した。いまから10年以上も昔に、ソウルで彼女と話したことがある。その当時から彼女は、韓国人学者たちの冷たい視線のなかにあっても、慰安婦問題の真相を明らかにしたいと努めてきた。
朴裕河教授の著作と法廷闘争、ソウル地裁の判決、そして日韓ハフィントンポストの質量ともに十分な報道は、「最良の3点セット」として、賞賛に値する。
左右ともに中途半端な「論評的報道」が多いなかで、ハフィントンポストは、一貫して被告の立場を擁護した。その上で、読者の客観的な判断に資する大量の情報提供を行った。「紙面」に限りがなく、多量に情報(ファクト)を提供できる、インターネットメディアにふさわしい報道展開だった。
最近の朝鮮日報を読んでいると、記者たちのさまざまな「対日論調」が、もろに出始めているという印象だ。駐日特派員経験者の危機感にあふれた論稿、学者からの寄稿は韓国外交の能天気ぶりをたしなめる。その一方で、相変わらずトンチンカンな見方(聖公会大学のヤン・ギホ教授ら)も載っている。
韓国紙の論調に、先日の安倍首相の所信表明演説を分析した記事がないのが、なんとも解せない。韓国は第3グループに位置づけられたからだ。(1)米国(2)アセアン、豪州、インド(3)近隣諸国(ロシア、韓国、中国、北朝鮮)だ。「最終かつ不可逆」の慰安婦合意にもかかわらず、相変わらずの隣国に対する直接的な不満表明は避けたが、安倍首相は価値観を同じくする第2グループではなく、第3グループで韓国に言及した。これまでの所信表明演説よりも、かなり露骨な扱いである。この意味を、「駐韓日本大使の不在長期化」と合わせて、分析した方がいいだろう。
韓国映画界の次のトレンドは、「慰安婦の次は、地獄島=軍艦島」である。
無罪判決の25日、新作映画「軍艦島」のポスターが公開された。強制連行された朝鮮人たちが集団脱出するというスペクタル映画だ。キャッチコピーは、「1945年日帝強占期。私たちはその島を〈地獄島〉と呼んだ」 である。ろうそくデモの場面も登場するという。誇大妄想の「怨念」は、とどまることがない。ヴァーチャルな映画が「歴史の憤懣」を掻き立て、劇場を出た観客が、モンスター化する。真実を解明する「第2の朴裕河」は、ここには不在なのだ。朴裕河氏に対する無罪判決を控えた21日、ソウル地裁は、「基地村(米軍慰安婦村)は違法でない」という内容の判決を下した。ハンギョレの記事によると、裁判所は「(基地村の)被害者たちが基地村内での売春を強いられたり、やめられないほどの状態にあったと見ることはできない」「(基地村での管理指針は)売買春関係者に対する性病検診・治療などの公益的目的を達成するため」とまで言及したという。どこかの国の右派の発言に酷似している。
サンフランシスコでは2月初め、「数十万人の慰安婦が、監禁され、死亡した」と碑文に書かれた慰安婦像が除幕される。これほど酷い碑文の慰安婦像は、見たことがない。女性の人権保護を自称しつつ、実際には歴史を偽造し、暴虐を尽くす所業だ。
エスノセントリズム(自民族中心主義)が、世界を覆い尽くし始めた。我々は「良識」を復活させねばならない。
(了)
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