生き残るための経営戦略にCSRは必須(2)
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横浜市立大学 教授 影山 摩子弥 氏
「三方よし」とCSR
――日本にはCSRという概念がなかったのでしょうか。
影山 それに類する概念はありました。鎌倉時代くらいから活躍した近江商人の経営理念である「三方よし」がよく取り上げられます。CSRなどとわざわざ言う必要は、ないのです。
つまり、社会は、みながそれぞれの仕事をする“社会的分業”で成り立っています。それぞれが専業的に生産した生産物をやりとりすることによって社会が成り立ちます。そこでは、自己の役割をきちんと果たし、生産物を生産したり、販売したりすることが求められます。それを自覚して、恥ずかしくない仕事をする、これが「三方よし」のうち、「世間よし」の観点です。つまり、「世間よし」とは、売り手の良心だと言えます。騙して変なモノを売り付けようとする行為を「世間」という良心が咎めます。
この点は現代でも同様です。ステークホルダーであるお得意先のニーズに応えなければ倒産するかもしれません。お得意先のニーズに社会貢献があれば、それに応えないといけない。それだけのことです。ステークホルダーには社員も含まれます。社員が一所懸命働くのと働かないのとどっちがいいかといえば、一所懸命働くほうですよね。それゆえ、ワークライフバランスに配慮する必要があるのです。
つまり、CSRとは、社会課題や雇用問題など具体的テーマに取り組むことをもって定義されるのではなく、存続のためにステークホルダーのニーズに対応することです。存続のために何を行うかは企業ごとに違います。それを理解せず誤解したまま取り組んでもCSRの効果は期待できません。
業績が上がる雇用のCSR
濱川一宏代表(以下、濱川) 私は、NPOで何らかの事情で進学できなかった若者への教育、就職、起業などの支援をやっています。そのなかで、就職先となる企業もCSRに取り組むよう勧めていくべきだと考えました。
影山 「若者の就職支援・起業支援の一環として企業にCSRを勧めていく」というコンセプトは良いと思います。課題のある若者は、就職が決まり難い傾向があります。横浜にはコンビニのバイトさえ断られる高校があります。高校を卒業しても就職先がありません。また、最近では、電通の社員が入社から1年半ほどで自殺したという事件が注目されました。雇用のCSRをしっかりさせることは社会的意義があります。
しかし、それだけではなく、企業にとっても意味があります。中小企業には、人が来てくれないという悩みを抱えている企業が多い。貴重な人材確保につながります。それだけではなく、ダイバーシティ(多様性)が組み込まれ、新しいアイデアにつながるなど相乗効果が生まれます。そのため、現在では、ニートやフリーターのトライアルを受け入れる企業も増えてきています。
また、人材難でなくとも、雇用のCSRに力を入れれば、優秀な人材が応募してきてくれます。経営者は、社員を甘やかしてはいけないといった発想になりがちですが、働きやすければ、会社に対する帰属意識も高くなり、一所懸命に働いてくれます。必然的に業績もよくなります。
雇用のCSRの取り組みが充実している例として、島根県の㈱長岡塗装店を挙げることができます。同社の常務取締役・古志野純子さんのお話では、事前に制度を作ったわけではなく、社員のニーズが発生する度に対応する制度を作っていったそうです。古志野さんは「場あたり的だった」と謙遜していますが、社員のニーズをよく聞いて対応することは、“真のニーズを察知して対応するCSRの基本姿勢”なんですね。しかも、個人が抱える多くの問題は共通しています。病気になれば緩やかな働き方、子どもができれば育児休暇、親が老いれば介護など、みんなに適応できる良い制度が整っていくわけです。そうすることで従業員が働きやすくなり、業務パフォーマンスが上がるのです。
(つづく)
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