生き残るための経営戦略にCSRは必須(3)
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横浜市立大学 教授 影山 摩子弥 氏
――雇用のCSRでは、そのほかにどういった取り組みがありますか。
影山 テレワーク、社内コミュニケーションを活性化する親睦イベント、リフレッシュ休暇などさまざまです。ただ、製造業の場合、職場の労働安全に気をつける必要があるなど、社員がステークホルダーだとしても、業種や部署によって気を付けねばならない領域は異なってきます。
障がい者雇用で有名な(有)真京精機では、障がい者が作業しやすい治具を開発するといった取り組みまでしています。今でいう合理的配慮ですね。しかし、障がいのあるなしに関わらず、働きやすくなるような取り組みは必要で、労働生産性に影響をおよぼし、業績まで左右することもあります。
濱川 今、起業志向の若者が増えていますが、起業する段階からCSRの考え方を導入するよう勧めていくのはどうでしょうか。
影山 CSRは企業が元気に存続していくための必須の観点なので、起業の際も不可欠の観点です。
京都にある床屋さんの例です。若い経営者が始めたお店でしたが、お客さんがほとんど来ません。もう店をたたもうかというときに、高齢者のカットを無料で行います。すると、急にお客さんが来るようになって経営が持ち直したそうです。そこには、経営姿勢の変化があったのではないかと思います。お客さんを増やそうというガツガツとした雰囲気がなくなり、お年寄りの髪を切るなかで、穏やかな雰囲気が形成されたのではないでしょうか。
これは、経営者だけに言えることではありません。社会貢献は社員教育の極めて効果的なツールです。参加型の地域貢献は、社員の仕事へのモチベーションを上げます。また、地域の人々と接していくなかで社員のコミュニケーション能力が上がります。企業規模は関係ありません。
CSRの誤解が生んだCSV
濱川 CSRに代わる概念としてCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)を企業で取り入れるという動きもあります。
影山 私は、CSVは CSRの一部に過ぎないと考えています。CSVを提唱するマイケル・E・ポーター氏(ハーバード大学経営大学院教授)は、以前「戦略的CSR」という言葉を使っていました。しかし、「寄付やフィランソロピーでイメージアップを図るCSRは効果が薄い」という文脈でCSVを提唱しています。「戦略的CSR」ではラチが明かないので、“花火を打ち上げた”といった面があるような気がします。もちろん、マイケル・E・ポーター氏が言う意味でのCSRは経営戦略的効果が薄いとは思います。しかし、CSRはそれに尽きるものではありません。現代に必要なのは包括的な経営戦略です。また、CSVは中小企業では取り組み難いです。CSVに目を奪われているようでは、効果的CSRはできません。
濱川 CSVを導入し、社会貢献をビジネスにしようという風潮があるように感じます。それで社会が良くなればいいのですが、先ほどのお話にあったように、欧米の真似で本質を知らないまま突き進んでいくことで弊害が生まれてきます。「CSRについて本当に理解されているか」と問いかけていく必要もあるのではないでしょうか。
影山 そうですね。CSVはソーシャルビジネスと解されている傾向があるように思います。もちろん、社会課題への取り組みもCSRの一環で、私は社会性のある事業を経営戦略化している場合を「社会性戦略」と呼んでいます。念のために申し上げますと、社会性に経営的意味がある状態がCSRなのであって、経営にとって意味がない場合はCSRではありません。たとえば、経営的な意味がないのに行われている寄付などです。それは、「背任行為」とすら言えます。つまり、それによって経営が危なくなったら、社員や顧客への責任はどうするのでしょう。
私は「社会性戦略」という場合、3つに分けています。1番目は、普通の社会貢献だが、お得意先や社員に評価され、売上や労働意欲に結びつく社会貢献型。2番目は、収益事業型で、たとえば貧困層が必要としているモノを安価に売り収益を得て回している場合。3番目は、例えば障がい者が戦力になるとか、社会課題を研修ツールにするといった経営資源型。CSVでは2番目の収益事業型の話が多く、これだと顧客の評価や社員のやる気、経営資源型に目がいかないという弊害が強いと思います。
(つづく)
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