過労死の時代に~変わりゆく労働の価値(3)
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いつからか時代が変わった
軍備のコストを経済活動に振り向けることで、我が国はあっという間にアメリカに次ぐ経済大国の地位を手に入れた。しかし、その成長もやがて終わりを迎える。失われた十年(ロストディケイド)といわれる成長停止である。しかし、それは10年では終わらなかった。低成長デフレの経済状況はすでに30年になろうとしている。今、50歳以下のサラリーマンはかつて毎年、二桁の給与の伸びがあったことは知る由もない。成長がなければポストも空かない。低成長下でまともな収益を上げるためには経営を効率化するしかない。効率化を実現するには、少数精鋭という過酷な経営環境を作るしかない。この場合、その精鋭には過酷なノルマが課せられるということになる。いわゆる長時間過重労働ということである。このような環境に対応するには訓練がいる。しかし、それはOJTのような業務的訓練ではない。実際に人生のシーンで体験するさまざまな矛盾と理不尽に対する訓練である。
不幸なことに団塊の世代のように多様な人生体験を経ていない若者の中には困難に対抗する手段を思いつかないものも少なくない。そんな人間は立ち向かうことも逃げることもできず、最後は自らを追い詰めるという結果にたどり着く。
真面目であり、順調な評価を受けながら成長し、社会的評価の高い企業に就職した優秀といわれる若者も例外ではない。いや、むしろ順調な人生を経て社会に出た人間ほど逃げる能力と立ち向かう能力に欠けているのかもしれない。
親も同じである。自分の子は命がけで守るという気概がない。警察に相談した。学校に申し出た。労働局に相談した。なぜ自らがのりこんだり、それでもだめなら退社や転校を談判したりしないのか不思議である。何かがあって後悔しても子どもは帰ってこない。これも対応、耐性の問題である。耐えられないほどの納得できないこと面白くないことには抗議の声を上げるべきなのである。地図は方向と道は示してくれるが天候や具体的な対応法は教えてくれない。実際の行動では最後は自分の判断力に頼るしかないのである
さらに労働環境はシビアになる
文明はスロープ状の変化ではなく階段状に変化する。ある時、突然違った世界が出現するということである。石炭や石油は何千年も前から知られていた。しかし、それを機械エネルギーとしたのは蒸気機関やガソリンエンジンが発明されてからである。馬や人といった生産ツールが機械化するとそこに目覚ましい変化が発生したのは誰もが知ることであるが、そこには新たな問題が発生する。生産ツールの変化はさらに激しい変化を生むのである。
機械によって生産性が飛躍的に向上するとそれに伴って時間と情報伝達も変化する。古代、農業の発展で農産物の余剰生産が可能になり、その蓄積を基にして国家と権力が生まれたように、機械の発展はそれよりはるかも大きく、急激な変化を人類にもたらした。
特に動力機関の発明は、陸や海だけでなく、空を高速で移動する手段を我々は手に入れた。さらにそれらのツールを使った戦争でその改善が進み、今や人間の知力に勝る機械さえ生まれている。
人間の本能は「前に進め」である。いま、IPS細胞が人間のあらゆる臓器を新しくできるレベルに近づいている。それだけではない。AIも人間の代わりに労働をするだけでなく、有能な人事担当者のように社員の選別を始める。社員の一人ひとりを過去の事例や現象をインプットし続け、選別し、ランク付けする。この人間は将来過労うつを発症しそうだから、事前ケアが必要だとか、もっと進めば、将来問題を起こす可能性が高いから「採用不可」ということになりかねない。人間の可能性より危険性を優先する完全な人権侵害である。いやきっとそういう時代が来る。単純作業だけでなく、複雑系の仕事も人間から主役の座を奪っていく。その時、ごく普通の人はどうなるのだろう。
(つづく)
<プロフィール>
神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。関連キーワード
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