ジャストシステムが奇跡の復活を遂げた新規事業の通信教育(前)
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新規事業を立ち上げる企業は多いが、必ずしも成功するとは限らない。どの分野にも、大きなライバル企業がいるからだ。圧倒的なシェアをもつ既存企業に真っ向勝負して勝てることはない。それほど新規事業は難しい。新規事業で成長路線を確実にしようとしている企業が存在する。ソフト開発の(株)ジャストシステム(徳島市)である。
16年冬のボーナスは167万円で首位
「復活の恩恵167万円 ジャストシステム首位」――。
日経産業新聞(16年12月13日付)の見出しが目に飛び込んできた。日本経済新聞社がまとめた2016年冬のボーナス調査で、支給額トップはジャストシステムだったという記事だ。ジャストシステムの16年冬のボーナス支給額は、15年冬に比べて17.6%増え167万円。『同社は営業利益の一定割合を賞与に上乗せし、社員に還元する制度を導入。(中略)1997年に株式上場して以来の最高益を達成した。社員のやる気を刺激し、大手企業を上回る額を支払うまでに復活を遂げた』と報じた。
ジャストシステムの16年4~9月期の連結決算は、売上高は前年同期比7.7%増の96億3,900万円、営業利益は同14.2%増の32億9,100万円、純利益は同9.7%増の22億7,200万円。ワープロソフト「一太郎」やかな漢字変換ソフト「ATOK」が堅調だったほか、タブレット端末を使った小中学生向け通信教育「スマイルゼミ」など新規事業が伸びた。17年3月期の通期見通しは開示していない(16年3月期の売上高は182億4,100万円)。
業績の回復が好感され、17年1月30日の株価は10年来最高値の1,276円をつけた。倒産寸前に陥っていた08年10月8日の安値93円から13.7倍の上昇だ。
経営危機に陥っていた同社は、09年に制御機器大手の(株)キーエンスの資本参加を得て再建に取り組んだ。奇跡な復活を牽引したのは、新規事業の通信教育だった。
マイクロソフトのWordに敗れ経営危機に
ジャストシステムは、浮川和宣(うけかわ・かずのり)・初子夫妻が79年、徳島市で創業した。株式会社化は81年。85年8月、日本語ワープロソフト「一太郎」を開発した。浮川氏が学生時代に家庭教師をしていて病死した中学生の名前、一太郎にちなんで一太郎と命名した。一太郎は大ベストセラーとなり、日本語ワープロの代名詞となった。
一太郎の前に立ち塞がったのは米マイクロソフト(MS)のWordである。「Windows95」が世に出たのはインターネット元年といわれる95年。新興IT企業の群雄割拠状態から抜け出て基本ソフト(OS)の世界標準になったのがマイクロソフトのWindows。世界中のパソコンの9割以上がOSにWindowsを採用した。WindowsのOSを世界標準にしたMSは、WindowsとWordの抱き合わせ販売によって、一太郎のシェアを奪っていった。
一太郎の最大の特徴は縦書きの機能が充実していることだ。映画やテレビのドラマの原作・脚本を手がける脚本家は一太郎で執筆している人が多い。また、官公庁や一部の企業では、公文書作成のために一太郎を標準のワープロソフトに利用している。
一太郎は日本語ワープロとしての機能を充実させたため、世界規格から離れてしまうという皮肉な結果を招いた。日本の携帯電話と同じように一太郎は、日本だけでしか通用しないガラパゴス化したといえる。
世界標準になれなかったジャストシステムは経営が悪化。09年4月、東証1部上場のFAセンサーなど計測制御機器メーカー、キーエンスの傘下に入り、創業者の浮川夫妻は経営から退いた。ジャストシステムを去った浮川夫妻は、事業育成をメインとする研究開発型企業「MetaMoJi(メタモジ)」を設立した。
(つづく)
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