アンチ・トランプ運動を陰で支える天才投資家ソロスの狙い(2)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
一体、彼の狙いは何なのか。ジョージ・ソロスといえば、天才的な金融投資家としてその名が世界に轟いている存在だ。日本にもたびたび顔を見せている。1930年にハンガリーの首都ブタペストで生まれ、ナチスの迫害や第2次世界大戦の戦火を逃れ、苦労しながら、英国で経済と国際政治を学び、その後1965年にアメリカに渡った。1973年にヘッジファンドの先駆けともいえる「クォンタム・ファンド」を設立して以来、記録的な利回りを達成し、巨万の富を得たことで知られる。
1992年には英国通貨危機(通称「ブラック・ウェンズデー」)を引き起こし、「大英銀行を倒産させた男」と呼ばれたほどである。一方で、それ以前から、自らが築いた巨万の個人資産を投じ、1979年にはアパルトヘイト下にある南アフリカの黒人生徒たちへの奨学金の支給を始めたことを皮切りに、東欧諸国や旧ソ連諸国を中心に国際的な慈善活動も展開している。自らが難民と同じ境遇を生き抜いてきたという経験もあるためか、弱者に対する思いやりは人一倍強いようだ。
1979年にニューヨークで設立された「オープン・ソサエティー財団」の活動は、その後、世界各国に広がり、いわゆる「ソロス財団ネットワーク」を構築している。その最大の狙いは「世界に民主主義を広げることにある」とは本人の弁である。旧ソ連時代から、ロシアの非民主的な政治体制を批判してきた。プーチン大統領を評価する発言を繰り返すトランプ大統領には反発や危機感を抱いているに違いない。
「生き延びるために欠かせないのは、世界の動きを人より早くつかむこと。危険を察知し、素早く行動すること。そのためには、一見脈絡のないようなニュースや現象を関連付ける“見えない糸”を探る努力を重ねること」。これがソロス氏の成功の秘訣だ。市場という戦場で高いリターンという勝利を重ねるヘッジファンドの雄、ジョージ・ソロス氏。その成功の原点は幼い頃から生死の瀬戸際に立たされながら身に付けたサバイバル発想に凝縮されているようで、父親譲りの不動産王として成功したトランプ氏とは一線を画すビジネス哲学の持ち主である。
最近このソロス氏が注目しているのが中国の動きである。というのも、同氏の見立てによれば、「中国は遅かれ早かれアメリカを抜き、世界経済の新たな牽引車として君臨するだろう」と目されるからだ。しかし、2014年以降、同氏は「中国と日本を含むアメリカの同盟国との間で、第3次世界大戦が起こる可能性が高まっている」との衝撃的な発言を繰り返すようになった。南シナ海での岩礁埋め立てや中国によるものと思われるアメリカ政府機関へのサイバー攻撃などが顕在化している動きに加え、中国内部の「奥ノ院」からの独自情報に基づく判断のようだ。
中国と周辺国との軋轢は「沸点に達している」とソロス氏が指摘するように、激化する一方であり、そうした目に見える形で深刻化する事態を危惧してのことであろう。同氏の警告を待つまでもなく、こうした緊張状態が続けば、一触即発の事態もありうる。
当然のことながら、係わる分野が政治、経済、文化を問わず、中国とアメリカ、日本との間で軍事的な衝突が起こることも念頭に置き、冷静な情勢判断のレーダーを磨いておく必要がある。中国内部に情報パイプを持つソロス氏の予測には無視できないものがある。
ソロス氏に言わせれば、万が一そのような事態になれば、「危機はアジアにとどまらず、中東、ヨーロッパ、そしてアフリカにまで広がる可能性が高い。なぜならアメリカの力が急速に衰えており、有効な歯止めをかけることができなくなっているからだ」。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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