バイオ産業に革命をもたらす「ゲノム編集」(前)
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日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)
皆さんは、「ゲノム編集」という言葉を聞いたことがあるだろうか。まだ知らない方のほうが多いだろう。この「ゲノム編集」は、すでに農業をはじめ、水産業などでは活用が進み、バイオ産業、医療分野への応用も期待されている。
今までの世の中の技術は、モノを変えることによって人間の生活に寄与したが、「ゲノム編集」は人間そのものに直接影響をおよぼす技術なので、技術自体をしっかり理解する必要がある。そのような意味で、今回は「ゲノム編集」はどのようなもので、なぜ“革命”と言われるほど大きなインパクトが予想されるかを説明したい。人間の体は、およそ60兆個の細胞で構成されている。この細胞の営みの主役は、ご承知の通り「タンパク質」である。そのタンパク質をつくる設計図が「DNA」であり、このDNAの遺伝情報に従ってタンパク質はつくられている。
DNAはテープのような記録媒体で、DNAのなかにどのようなタンパク質(厳密に言うとアミノ酸)をつくるべきかという遺伝情報が書かれている。DNAのすべての遺伝情報を指すものが「ゲノム」であり、DNAの特定の情報のことを「遺伝子」という。ヒトの遺伝子は、全部で2万以上あるようだ。
その遺伝情報のすべてであるゲノムを解析するプロジェクトは、実は2003年に終了している。これは大きな意味を持つ。個々の遺伝子の解析はこれからであるが、ゲノム解析の完了は、人間の遺伝子研究の土台をつくったことを意味する。今でも世界各国で競うように遺伝子に関する研究が進められているが、遺伝子が解明されると、病気の治療に今までのように対症療法で臨むではなく、病気の根本的な原因をなくす治療になるからだ。それでは、「ゲノム編集」とは何だろうか――。
ゲノム編集とは、DNA上の狙った箇所をピンポイントで切断、あるいは改変し、遺伝子が働かなくなるようにする技術だ。以前にも、実は遺伝子を改変する技術はあった。従来の技術は1970年代に始まった技術で、「遺伝子組み換え」という技術だ。遺伝子組み換えとは、基本的に動植物、バクテリアなど他の生物が持っていた遺伝子を、ターゲットにする生物に組み込むことをいう。
たとえば、殺虫効果のあるバクテリアをトウモロコシに組み込むことによって、害虫に強いトウモロコシをつくるようなことである。ところが、従来の遺伝子組み換え技術は、狙ったところに遺伝子を組み込むことはできなかった。遺伝子を狙ったところに入れようとすると、100万回やって1回成功するくらいの確率と、偶然に頼るような技術であった。ところが数年前、「クリスパー(CRISPR)」と呼ばれる夢のようなゲノム編集技術が突如として現れ、バイオ業界をはじめ、農業、漁業、医療の分野などで大きな期待が寄せられている。
(つづく)
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