アンチ・トランプ運動を陰で支える天才投資家ソロスの狙い(3)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
実は、こうした懸念を抱いている投資家は少なくない。例えば、ジェイコブ・ロスチャイルド卿もその一人である。RITキャピタル・パートナーズの会長を務めるロスチャイルド。「オマハの賢人」とよばれる投資家ウォーレン・バフェットや元国務長官ヘンリー・キッシンジャーなどを顧問に抱えるロスチャイルドであるが、「中東で広がる混乱と過激主義の動き、ロシアや中国の拡張主義、欧州を覆う失業や難民の急増傾向は第2次世界大戦以降、最悪の危機的状況をもたらす可能性を秘めている」と語る。まさに最悪のシナリオといえるもの。
こうした事態を回避するためには、中国を国際的な金融及び安全保障の中にいかに組み込むかという国際政治上の知恵が求められよう。しかし、トランプ大統領ではそうした知恵が感じられず、「一気に対立が戦争に拡大する恐れがある」と受け止めている様子だ。それゆえ、外交経験の豊富なヒラリー・クリントン元国務長官の方が中国をうまく手なずけることができると考え、彼女を今でも支援していると思われる。
ソロス氏はこれまでも「中国政府から要請があれば、中国の抱える環境問題やエネルギー問題などの解決はもちろん、このところ緊張状態に陥っている節の見られる北朝鮮との関係においても、打開策に必要な資金援助も惜しまない」とまで発言している。
とはいえ、ソロス氏自身がいまだに中国当局からは要注意人物と見なされているため、東欧や中南米で実現してきたような革命的変革を進めることは当面、中国では難しいとの認識である。とりあえず、彼が描いているのは、「第3次世界大戦を回避するためにも、中国との金融戦争を回避する方策を考えるべき」ということのようだ。
人民元の国際化への動きはあるものの、まだ国際的な信認は十分得られていない。IMFのSDRを中国に与えることも中国を国際的な仕組みの中に組み込む上で検討に値するとの考えを広めつつ、水面下で中国ビジネスのサバイバル環境を整えているフシがある。実際、IMFはそうした決断を2015年末に下した。
たびたび中国問題について発言を繰り返すソロス氏であるが、最も注目すべきポイントは「暴走する機関車・中国」にとっての安全装置はあるのか、というテーマであろう。ソロス氏が「21世紀の望ましい中国像」というテーマで講演を行った際の着眼点は、「中国にとって大事な安全装置は、政治と経済社会の民主化を同じスピードで進められるかどうか」ということに尽きる。
政治と経済の両面において、自由で寛容度のある体制ができていなければ、経済という片方の車輪がスパークしたときに、車両全体を支えることはできない。そのような危機管理の一端として「オープン・ソサエティー」という概念を中国にも広めようとしているのである。
アジア戦略に関しては、ソロス氏の発想はヒラリー・クリントンに近い。というより、ヒラリーにもビル・クリントンにも多額の政治献金を重ね、ロシアを内部から転覆させようと企てる一方で、中国を自由経済社会に軟着陸させようとするのがソロス流といえよう。中国は既にアメリカを凌駕するほどの経済力を貯えている。最新のプライスウォーターハウスクーパースのレポート『長期展望2050』を見ても、ソロス氏が予測するように、中国の潜在的成長率は世界ナンバーワンである。
そうであるがゆえに、ソロス氏の分析では「中国を関与させない国際政治は歴史的に禍根を残すことになる」。そうした観点から中国のリスクとチャンスを言葉巧みに宣伝する稀代の投資家を自負するため、トランプ流の「ロシア善玉、中国悪玉」の単純な区別は危険だという認識に立っているようだ。ソロス氏が推進する「アンチ・トランプ」の最大の狙いは、ここにある。(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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