安倍・トランプ「ゴルフ外交」は「神武以来の朝貢外交」か?(1)
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SNSI・副島国家戦略研究所 中田安彦
日米首脳会談は大成功に終わったとマスメディアは伝えている。安倍晋三首相にとっても、米国側の意向によって大々的な宣伝は避けられたとは言え、自らが理想としてやまない祖父の岸信介首相とドワイト・アイゼンハウアー大統領以来、60年ぶりと言われる「ゴルフ外交」を実現したのだから、さぞご満悦といったところだろう。
安倍首相が案外トランプとウマが合うのではないか、ということは前から日米双方から指摘があった。ジャパン・ハンドラーズの一人として、最近まで日本政府に大きな影響力を行使してきた、マイケル・グリーン元NSCアジア上級部長は、かつて「フォーリン・ポリシー」紙への寄稿で、「私は安倍がトランプと親密な関係を築くとみている。安倍は聞き上手なうえ、世界の独裁者とウマが合う」と予測したことがある。また、今回の訪米に同行した、萩生田光一官房副長官も、日本のメディアに以前、「首相はおぼっちゃま育ちの割には不良と付き合うのが上手だ。荒っぽい政治家と堂々と話すことができる」とも語ったことがある。トランプは現在、欧州諸国や国内の大手メディアから大統領令の乱発や、過激なツイッター発言でも批判を浴びており、ここ数十年では最も低い支持率で就任した大統領だ。そんなこともあり、全く批判的なことを口にしない安倍首相は歓迎すべき存在だったのだろう。
肝心の日米首脳会談の「成果」はどうか。確かに、日米首脳会談後の共同声明を見ていくと、(国民・有権者が期待しているかはともかく)、安倍首相が望んでいた内容は、ほぼ「満額回答」で盛り込まれている。米による核抑止の継続のほか、尖閣諸島の対日防衛義務を定めた日米安保第5条の適用、普天間飛行場の名護市辺野古への移設、アジア太平洋地域の貿易ルール作りを日米で指導、そしてトランプ大統領の年内の訪日と、まるで日本側が下書きを書いたのではないかと思えるほどだ。
また、就任前からトランプ大統領がツイッターなどで、メキシコに進出しているアメリカやトヨタを含む日本の自動車企業を米国内に工場を戻すように恫喝していたため、安倍首相周辺は首脳会談でもトヨタ叩きをされるのではないかと、訪米前にはトヨタの豊田章男社長とミーティングを行うなど、念を入れたが、今回は自動車問題や、日本が日銀を使って為替を円安誘導しているといった批判は一切なかったという。
日米の経済協議では、米中が毎年6月に行っている「米中経済・戦略対話」と似たような枠組みを、米議会に太いパイプを持ち、インディアナ州知事時代に日本企業の投資を多く受け入れたマイク・ペンス副大統領と、日本では麻生財閥の一族として建設業者(セメント屋)としても知られる麻生太郎副首相・財務大臣を窓口にした枠組みを作った。ここにおいて日米FTAの交渉が行われるのではないかと言われている。
更に首脳会談後の「ゴルフ外交」では、トランプ大統領と安倍首相は娘のイヴァンカさんを同行させて、18ホール+別のコースで9ホール、合計27ホールも回った。トランプはオバマ大統領時代に、ツイッターでさんざんオバマのゴルフ趣味を揶揄したことがある。現在問題になっている中東7カ国からの入国禁止例や側近の失言などもあり、トランプ大統領サイドが国内での批判に油を注ぐことを恐れたのか、メディアの大々的取材は禁じられて、私たちはゴルフ外交の実態を知ることはない。岸とアイゼンハウアーは、ワシントン郊外の名門のバーニング・ツリー・クラブで、首脳会談後にゴルフをプレーした後、真っ裸になってシャワーを二人で浴びたという有名なエピソードがある。そこまでは行かなかったにしても、5回も食事をともにした安倍首相とトランプの個人的関係は確かに深まったのだろう。
そして、最後の最後では、北朝鮮がトランプ大統領就任後、始めて大きな弾道ミサイルの実験を行った。まるで日米首脳会談に対する「祝砲」のようなこの実験を受けて、ゴルフ後の日米首脳は記者会見を行い、その場で安倍首相はトランプから「アメリカは偉大な同盟国、日本を100%支持する」という言葉を引き出した。安倍首相にとって、北朝鮮のミサイル実験は何度となく経験しているいわば「年中行事」のようなものであり、この実験自体が大きな変化を東アジアに与えるわけではないが、そのようなコメントを大統領から引き出せたのは、実にラッキーだったと言えるだろう。
しかし、この日米首脳会談は本当に「成功」だったのだろうか。そのように疑わざるをえない、米側の発言がある。これは日米首脳会談翌日の日曜日の『読売新聞』が報じた内容なのだが、会談後に名前は書かれていないが、総理の同行者の一人が、米政府高官から「次からは、こんなに甘くないからな」(読売・2月12日3面)と声をかけられた、というのである。
このコメントは匿名の米政府高官からのものであり、他にこのようなことを書いているメディアはない。しかし、首相に対して常に肯定的な報道を繰り返してきた、「読売新聞」の記事となれば、これは軽く捨て置く訳にはいかない。「次からは甘くない」ということは、今回はアメリカ側がさまざまな事情で「アマアマ」の対応をしたということにほかならない。ここから見えてくるのは、トランプ外交のパターンである。
(つづく)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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