安倍・トランプ「ゴルフ外交」は「神武以来の朝貢外交」か?(4)
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SNSI・副島国家戦略研究所 中田安彦
これも「読売新聞」(2月11日付)が書いていたのだが、日本政府は安倍訪米の前に、米国側に3人の窓口を作ったと書いてある。その3人とは、トランプの娘のイヴァンカの旦那で元不動産ビジネスマンのジャレッド・クシュナー、更に親ロシア派の大統領首席補佐官であるマイケル・フリン元中将、更に1月末に専任された新任の大統領次席補佐官(国際経済担当)のケネス・ジャスターであるという。ジャスターについてはほとんど報道されていないが、WSJ紙によると、投資ファンドのウォーバーグ・ピンカスのマネジングダイレクター、米企業「セールスフォース」で取締役として働いた経験があり、ブッシュ(子)政権では商務次官を務めた法律家である。ロックフェラー系の日米欧三極委員会やアジア財団メンバーでもある。要するにトランプが批判してきた「グローバリスト」で、スティーブ・バノンのようなナショナリストの天敵である。国際金融の経験がある点で、オバマ政権でTPP交渉を担当した、マイケル・フロマン通商代表は、シティグループ出身で、最初はジャスターと同じ大統領に対する国際経済担当補佐官をやっていた。ジャスターは、今後もサミットでは、シェルパ(首脳会談に先立って各国と交渉する政府代表)をやると言われている。
読売によると今回、日本政府はバノンやナヴァロのようなナショナリストではなく、ジャスターやクシュナーのような穏健派や、キッシンジャーの元側近であった、マクファーランド国家安全保障担当次席補佐官の上司であるフリン補佐官との接触を行っていたそうだ。バノンの世界観は、西欧文明の後退の危機感に基づくある種の破滅主義的なものなので、交渉はしにくいだろう。トランプ政権の扇の要は娘婿のクシュナーであることはすでによく知られている。クシュナーはトランプ「社長」に対する凄腕の社長秘書として政権のスケジュール管理を行っているとも報道されている。
ただ、トランプはもともとアメリカのマフィアとも深いつながりのあるビジネスマンで、陽気な性格と同時に、マフィアのドン・トランプでもある。大統領当選後に新年を祝うパーティを安倍首相も滞在したフロリダの別荘「マール・アラーゴ」で行った際に、かつてのニューヨークマフィアの大物であった、「テフロン・ゴッティ」の異名を持つガンビーノ・ファミリーのジョン・ゴッティの友人だった人物(ジョゼフ・クリーク)と一緒に舞台に登場したことがタブロイド紙で報じられていた。不法入国の禁止令を批判して一時差止めした裁判官を、「あの判事とかいう奴ら」(so-called judges)と批判したことが報道されたが、裁判官を公然と脅しつけるのはまさにマフィアのやり方である。今では流石に「犬の首」を送りつけるわけにも行かないので、ツイートで攻撃している。他にもトランプはマフィア人脈を持っていると言われている。建設業者だったのだから当たり前とも言えるが、「ゴッドファーザー」が大統領になったのが今のアメリカだ。だから、表向きは穏やかなエリートを前面に立てて交渉することもあれば、バノンのようなネット右翼というか、狂気の持ち主や、ナヴァロのような強硬派を押し出してくることもあるだろう。「次は甘く見るなよ」という米高官の発言はそれを物語っている。そして、最後に決済するのはドン・トランプ、ディール外交の社長決済とはこういうことだ。
そして、その「ディール外交」の背後には、アメリカの外交論壇で高く評価されている、「オフショア・バランシング」という考え方がある。これは「アメリカという巨大な島国は太平洋、大西洋に囲まれている」という地政学的認識からくる考え方で、アメリカは地域のことは地域の国家同士にまかせて勢力均衡のバランスをさせて、大きくバランスが崩れてアメリカに対して安全保障上の脅威が生まれたときだけ、介入すべきだという考え方だ。要するに、地域のバランス維持の責任はアメリカではなく地域の国同士にあるという考え方だ。これは地域の限られた範囲だけを見ていくと、地域の国々がまるで自律的な外交をしているように見えてしまうが、実際は大きくはアメリカの手の上で踊らされているということになる。そのために、アメリカは地域で対立する国々のそれぞれにタイミングに応じて融和姿勢を見せたり、強硬姿勢を見せたりして、バランスの調整を行っていく。日本と中国の関係で言えば、アメリカは日本にカネを出させたい局面では、反中姿勢を打ち出して、防衛予算の増額(アメリカの武器を買わせる)を引き出し、逆に中国から引き出したいときは、日本側に擦り寄ってみせるわけだ。最初のトランプとのニューヨークでの面談の直前にPPAP(ピコ太郎)の歌を歌うイヴァンカさんの娘のアラベラちゃんの動画が公表されたが、今度は中国の春節直前に、中国語の歌を歌う動画をアップロードしたり、中国大使館主催のパーティに出向いたりする。両国を天秤にかけておだてる。わかりやすく言えばそういうことだ。
結局、「一つの中国」を巡るトランプの一連の発言でも、台湾がこの交渉カードに利用されたわけだ。米国の台湾ロビーは武器輸出の市場としての台湾を重視していても、台湾独立ということは支持したりはしない。そこら辺は実にビジネスライクだ。
米中はすでにフリン補佐官に対するカウンターパートとして、知米派の楊潔篪(ようけっち)・国務委員兼中共中央外事工領導弁公室主任、通商交渉ではウィルバー・ロス商務長官と、米中合同商業貿易委員会(JCCT)メンバーの汪洋(おうよう)副首相が決まっている。米中関係の試金石としては、5月末のシンガポールでのシャングリラ会合と6月はじめの米中戦略対話が重要になる。かつてカーター政権の国家安全保障担当補佐官を務めたブレジンスキーは、ユーラシア大陸を巨大なチェス盤に例えてこのような勢力均衡ゲームを行ったが、トランプ政権は、マッドマン・セオリー、ディール外交、オフショア・バランシングを駆使しながら中国との間の大国間のゲームを行う。日本や台湾はそのコマの一つにすぎない。おそらく谷内正太郎・国家戦略局長は理解しているだろうが、安倍首相は果たしてこの点を理解しているのだろうか。
日本国内では日米首脳会談は「大成功」と報じられているものの、今後を予測する際には油断は禁物なのである。(了)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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