2024年12月25日( 水 )

予測不能な北朝鮮の動きとビジネスチャンス(1)

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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

 思えば、実にあっけない最期だった。一時は「北朝鮮の3代目の最高指導者」と注目されていた金正男(45歳)のことである。今回、北朝鮮とはビザなしで行き来のできる数少ない国、マレーシアでの格安航空会社の待合ロビーで白昼堂々と毒殺されてしまった。

 2001年に「東京ディズニーランドに行きたい」と、ドミニカ共和国の偽パスポートで来日し、拘束される事件がなければ、今頃はピョンヤンで大手を振っていたはず。あの事件で父親の金正日総書記の逆鱗に触れ、以来、マカオを中心に中国、香港、シンガポールなどアジアを放浪する身になってしまった。

 異母弟で、現在の最高権力者、金正恩(34歳)が父親の後を継いだ時には「世襲は良くない。しかし、後を継いだのなら、人民の生活を良くするように精一杯心を砕いてほしい」と兄らしいコメントを発表していたものだ。とはいえ、その後「このままでは北朝鮮はもたない」と批判的な見方を述べ始めた。

 北朝鮮を追われた形の金正男は中国の庇護もあり、マカオをベースに投資事業を展開するようになる。アジアの事業家からの支援もあり、それなりに生計が立ち、マカオには家族も自宅も確保していた。中国にも別れた最初の妻や子どもがいるため、頻繁に往来をするなど、比較的自由な暮らしを謳歌しているように見えた。

 実は、日本人とも常時コンタクトを保っており、ビジネス上の相談や北朝鮮の内部情報を面談やメールを通じて提供する役目を果たしていたことは、知る人ぞ知る話。昨年12月にも、シンガポールで旧知の日本人と落ち合い、新たなビジネスの話を進める準備をしていた。

 ところが、約束の日時の直前になってドタキャンの連絡が。その後、日程を再調整しようとしていた矢先の暗殺事件となってしまった。まさに、狐につままれたような感じだ。

 異母弟の金正恩がフロリダでの安倍トランプ会談の最中にミサイルを日本海に向けて発射したばかりの出来事だった。そうした暴走を何とか食い止めようと、叔父の張成沢(チャン・ソンテク)とも動いた時期があったようだが、その叔父も2013年には処刑されてしまった。若き最高指導者は既に140人を超える幹部を処刑している。

 しかし、昨年、ピョンヤンを訪ねた人物が現地での情報として耳打ちされたのは「張成沢は生かされている」という仰天情報だった。ウソか本当か、「中国との交渉役として秘密裡に生かしている」というから、不可解千万とはこのことだろう。

 金正男にも「ピョンヤンに帰ってこいと連絡があった」とは本人の弁。まさに北朝鮮らしく、真相はどれもこれも闇の中。金正男がシンガポールで日本人に語ろうとしたことは何だったのか。調べてみると、どうやら金正恩に「身の安全を保障して欲しい」と、仲介役を頼もうとしていたようだ。というのも、彼が会おうとしていた日本人は頻繁にピョンヤンを訪問しており、金正恩の側近ともパイプを持っているからだ。

 以前にも、金正男は手紙をしたため、異母弟に「自分と家族がマカオで安心して暮らせるようにしてほしい」と命乞いをしていた。しかし、「将来、自分の地位に取って代わる可能性のある異母兄を生かしておくのは得策ではない」と判断してか、韓国の情報によれば、「金正恩はこの5年間、金正男の暗殺指令を発動し続けていた」とのこと。

 彼が最後に頼ろうとした日本人に言わせれば、「北朝鮮からの刺客から身を守るために、敢えて、メディアの取材に応じたり、公の場に積極的に身をさらしていたに違いない。力になれず残念だ」。今回の暗殺や先のミサイル発射の成功で、何でも思い通りになると過信した金正恩の今後の出方が気になるところである。

 トランプ大統領も安倍総理との首脳会談の場で「北朝鮮には好き勝手させるわけにはいかない」と大見得を切ったものの、具体的な制裁はいまだ打ち出されていない。中国が北朝鮮からの石炭の輸入をストップすると発表した時点で、「中国の決断を評価する」とコメントするのが精一杯のようでは、何ら歯止めにはならないだろう。3月に予定されている米韓合同軍事演習で北朝鮮に向けて軍事的圧力がどこまで行使されるのか。そこがアメリカの本気度を占う機会となるに違いない。

(つづく)

<プロフィール>
hamada_prf浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

 
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