2024年12月23日( 月 )

日韓の真の和解と友好は九州・福岡から~在福岡大韓民国総領事館 総領事・金 玉彩 氏(後)

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 海をへだてた隣国として、日本と深いつながりを持つ国、大韓民国(以下、韓国)。昨年末の釜山の少女像設置に端を発した問題が続くなか、大陸への玄関口として古代から朝鮮半島との交流を担ってきた福岡は、どのような役割を果たせるのか。在福岡大韓民国総領事の金玉彩(キム・オクチェ)氏にお話を聞いた。

(聞き手:福岡県日韓親善協会副会長、ムライケミカルパック(株)代表取締役社長・村井正隆氏、弊社代表・児玉直)

真の和解と友好を九州からはじめましょう

 ――昨年、韓国の方が500万人ぐらい日本に来られました。これまでの歴史にない大きな交流をしているわけじゃないですか。実際に日本に来て、日本に対して悪い感情を持つ人は少ないと思うのです。逆に、韓国を訪れた日本人も韓国の良さを知って帰ってきているわけです。これだけ国民同士の大衆的な交流があるのに、国を越えて仲良くなることは簡単なことではないですね。

 金総領事(以下、金) 私は、昨年9月まで東京の大使館で日韓交渉の現場を見てきました。外務省同士だと、どうしても実務的になってしまうため、日本も韓国も大きな心構えを持てない部分がありますね。どちらかが柔軟になればよくなるのではと思いますが、戦後から時間が経っているため、現実に起きている諸問題を簡単に解決できる策はあまりないと思います。「本当の国益」が何なのかを考えるならば、安倍総理も韓国の大統領ももっと策を考えると思いますね。

 ――メディアが発信すると、歴史や事情を知らない人は信じてしまいがちです。自分の目で見て、歴史を見て、自分の付き合いのなかで、個人で判断ができる方がどれだけいるかということですね。しっかりと本質がわかっている人はバカげた考え方はしていないですよ。

在福岡大韓民国総領事館 総領事・金 玉彩 氏

 金 韓国で少女像を設置したのは、民間団体がやったことで、韓国政府がやったことではないです。もちろん、それを止められなかったことに対して、日本が腹を立てるという気持ちはわかります。ただ、それに対する対抗措置を「日本政府」が行ったわけです。その結果が日本の国益にプラスになるか、反するか、それをいろいろ計算したと思うんです。韓国でも、像をそのまま置いてどうするのかという部分は論議が上がると思うんです。民間団体が像を設置しようとしたとき、最初、釜山東区役所は許可しませんでした。しかし、その後、区役所のホームページがダウンさせられるなど、区役所が仕事ができないような状態になった。それを誰が行ったのかは別途の問題。区長もお手上げで、やむを得ずに許可を出しています。少女像の問題には、プライドの問題以上に、日韓の間でそれぞれいろいろな問題があるわけですよ。

 ――旅行に来た方など、韓国にも親日派の人は多いはずなのに、それがメディアの大きな声の前にかき消され気味というのが現状だと思います。メディアが両国の親善になるような方向の記事をどんどん書けば、問題は起こらないのではと思います。

 金 例えば、米軍の基地費用負担問題は韓国も同じ状況です。北朝鮮による軍事的挑発もですね。アメリカまで北朝鮮のミサイルは届かないんですよ。でも、日本と韓国には届きますから。そういった国益の観点から事を押さえていかないと、国民の感情がお互いにかけ離れてしまう。それを止めるべきです。

 両国間の外交問題は簡単に解決できないことだと思っていますが、総領事として昨年11月に福岡に来て主張しているのは「日韓の真の和解と友好」が必要であり、「九州からその運動を行いましょう」ということです。九州は、他の地域と違い、そういう運動を推進できる地であると考えています。

 古代史を紐解けば、現在の韓国南部にあった伽耶(かや)や百済(くだら)と倭国は1つの連合国家のようなかたちで、北部九州を拠点に交流をしていたわけです。歴史書に記述がありますし、遺跡などを見ても歴史的な事実です。

 例えば、400年に伽耶が高句麗(こうくり)と新羅(しらぎ)の連合軍の攻撃で滅びそうになったとき、相当な数の貴族たちが九州に逃げ込みました。交流があったから頼ったわけです。実際に滅びるのはそこから100年以上後になりますが、その期間の伽耶の貴族のお墓、古墳が韓半島にはないんです。なぜなら貴族はみんな日本に逃げたから。また、先日、宗像市長とお会いしたときに、沖ノ島の遺物は伽耶との関係が深いとおっしゃっていました。他にも、660年に百済が滅んだあとに倭国による百済復興の動きがありました。それが白村江の戦いです。百済のために海を渡ったのです。そのころの日本は飛鳥時代ですが、おそらく百済から九州~関西ぐらいまで1つの文化圏、兄弟国家という意識ではなかったのではないでしょうか。結果として新羅と唐の連合軍に負けてしまいましたが、その後、九州の要である大宰府を守るために水城や大野城が築かれたのです。そういう遺跡などがたくさん残っている。他にも、九州に渡ってきて花を咲かせた文化もあります。有田焼や薩摩焼などはいい例だと思います。渡来して3世代も経てば現地化しますよ。

 近代史では日本が悪いことをした。でも、歴史を考えるなら、古代には良い関係もあった。結局、昔は兄弟じゃなかったのか。韓国もそういう視点で考えれば、日本に対して被害意識、コンプレックスを少なくできると思うのです。逆に日本もそうです。古代に渡来人から文化や技術を教えてもらったということに対して、九州の人は認めるかもしれませんけれど、単に「大陸から来た」とされています。水田の技術、青銅器・鉄器文化、騎馬文化が伝えられたことを認めたくない、狭量な民族主義者がいるわけです。

 歴史的事実を考えれば、中央の政治や外交で多少ギクシャクしても、国民同士は問題なく交流すべきですし、先人の交流の精神を見習ってお互いに理解を進めるべきです。そして、九州の方々はその精神を持っていると思うのです。そういう精神を思い起こし、お互いを深く理解し、ギクシャクしたところをなくしていきましょう。それが先ほど言った「真の和解と友好は九州から」という主張なのです。

末永く、大きな視点でお互いを発展させる

 ――福岡の総領事の使命はここにあるということですね。

 金 そうです。慰安婦問題に関しても、日本は「我々は悪いことした」と思えばいいし、韓国は「我々は昔は兄弟関係だった」と考えればいい。これは両方の国民に言いたいですね。でも現実には、韓国国民には最近の被害意識があるので、どれだけ納得するかはわかりません。

 先ほど話がありましたが、16年は年間500万人以上が韓国から日本に来ている。日本から韓国へは230万人です。合計730万人以上、1日2万人を超える交流の時代ですよ。韓国人口の10%にあたる人が日本に来て、実際にいろいろと見ている。そういう時代に、もちろん現実的な問題ではありますが、国全体で大問題にするのは違うのではないでしょうか。過去の負の歴史の話ばかりすればキリがないのです。

 九州と韓国は過去に緊密な関係を築きました。そして、現代では同じ自由民主主義国家、市場経済を導入した国として発展してきました。アジア国家でOECD(経済協力開発機構)に加盟しているのは日本と韓国しかないじゃないですか。お互いにプライドを持って、仲良くしなければならないと思います。

 ――最後に、九州の皆さんにメッセージをお願いします。

 金 九州と韓半島は2,000年前から、お互いに理解し合い、交流し合い、助け合い、お互いに発展させてきた関係です。現時点では日韓の政治外交問題がありますが、もっと末永く、大きな視点でまたお互いを発展させていきましょう。

(了)
【文・構成:犬童 範亮】

<プロフィール>
金 玉彩(キム・オクチェ)
58歳、韓国慶尙南道生まれ。国防省を経て1993年より在日本国大韓民国大使館に書記官、参事官、公使として14年間勤務。2016年11月より在福岡大韓民国総領事館 総領事。

 
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