2024年11月23日( 土 )

予測不能な北朝鮮の動きとビジネスチャンス(4)

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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

 ロシアは冷戦時代に開発した超深度の掘削技術を武器に、北朝鮮に対し油田の共同探査と採掘を持ちかけている。この技術は欧米の石油メジャーでも持たない高度なものであり、ベトナムのホーチミン沖で新たな油田が発見されたのも、ロシアの技術協力の賜物である。2015年4月には、ロシアと北朝鮮は宇宙開発でも合意している。両国の関係は近年急速に深化しており、ロシアは新たに北朝鮮の鉄道整備のために250億ドルの資金提供を約束したばかりだ。

 アメリカからは、超党派の議員団がしばしば平壌を訪問しているが、核開発疑惑が表沙汰になる前の1998年6月には、全米鉱山協会がロックフェラー財団の資金提供を受け、現地調査を行った。その上で、5億ドルを支払い北朝鮮の鉱山の試掘権を入手している。当面の核問題が決着すれば、すぐにでも試掘を始めたいという。トランプ大統領は「金正恩がワシントンに来れば、マクドナルドで歓迎する」と茶化しているが、本音では北朝鮮の資源に関心を寄せているようだ。

 韓国はじめ、中国、ロシアといった周辺国やアメリカ、イギリスの支援を得ることで、豊富な地下資源を開発することに成功すれば、北朝鮮は現在の中国のように急成長することが期待される。今が安く先物買いをする絶好のチャンスだと宣伝しているのである。

 日本人の大半はそのような動きにはついていけず、発想そのものに抵抗を感じるだろうし、金儲けを最優先する投資ファンドの動きには嫌悪感すら抱くに違いない。しかし、これが世界の現実である。

 このことを若き指導者、金正恩は十分認識しているようだ。なぜなら、権力の座に着くやいなや、彼は「経済と軍事の対等化」宣言を発しているからである。それまでの軍事最優先の路線から経済発展を同じく最重視する姿勢を打ち出した。工場や商店に対しても収益を上げた額に応じて報奨金を出すことを決定。生産性の向上を最優先する意向に他ならない。経済特区の数も25カ所に拡大するなど、矢継ぎ早に父親時代を塗り替える政策に邁進している。ピョンヤンでは携帯電話や自動車の数も急増中。

 そうした現実を見ずして、拉致問題と経済支援をリンクさせる戦術に固執しているだけでは日朝関係の進展は望めない。それどころか、日朝関係のみが世界の動きから取り残されることもありうる。すでに見てきたように、アメリカも中国も北朝鮮との直接取引に手を染めている。ロシアもインドも負けていない。

 では日本の切り札は何だろうか。実は、金正恩はブラジルの偽パスポートを使って日本に来たことがある。日本で生まれ育った母親との絆を感じているのかも知れない。偽情報の飛び交う中、この若き指導者の実像を正確に把握する必要があるだろう。

(了)

<プロフィール>
hamada_prf浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

 
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