サウジアラビアの新経済改革「ビジョン2030」と日本(2)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
これまで世界最大の産油国のサウジアラビアは、自国のシェアを確保するために敢えて減産という選択肢を避けてきた。特に、イランとの間で覇権争いが激化する兆しを見せていたため、サウジアラビアは国内経済をある程度は犠牲にする形で、減産という選択肢を避けてきたのである。
また、それだけの体力があったのも事実だ。しかし、2014年夏には1バレル100ドル前後であった原油価格が、2016年半ばには30ドル台にまで値下がりしていたことは、サウジアラビアの経済を想像以上に深刻な状況に追いやってしまった。
その影響は、サウジアラビアの経済・社会に暗雲を投げかけるようになった。例えば、サウジアラビアの東部に位置する「サアド専門病院」では、従業員の給料が2016年5月以降支払われなくなってしまった。そのため、1,200人を超える従業員たちが、職場放棄という強硬手段に訴えるという前代未聞の労働争議が発生した。
サウジアラビアでは、労働組合は厳しく禁止されているため、これまでデモや座り込みなどの労働争議とは無縁であった。しかし、今回の経済危機を受け、外国の医者、例えば、イギリスやアメリカのドクターの間でも給料の支払いが滞ってしまったようだ。そのため、ドクターに限らず、看護婦や事務方のスタッフたちが出身の国籍を問わず、ソーシャルメディアを通じて、一致して行動をとることになったという。
実のところ、この病院はサウジアラビアの大富豪、マアン・アル・サニーの所有するサアド・グループに属している。いわば、サウジアラビアの富を象徴する企業体なのである。そのような大企業がこうした現金不足に陥ったという事実は、事態の深刻さを想像させるに余りあるだろう。
サウジアラビアの国民の8割は公務員に他ならない。病院をはじめ、建設現場やサービス産業の至る所で、主として南アジアからの出稼ぎ労働者が仕事をこなしている。インドやパキスタン、バングラディシュやフィリピンといった国々からの労働者が、3Kを含む国内のサービス産業の半分以上を請け負っているのが、サウジアラビアの現状である。
しかし、こうした出稼ぎ労働者たちへの給料が支払われないという異常事態に直面し、彼らを派遣している国の大使館では、何とか自国民の生活を支援しようと食料やシェルターの提供に乗り出した。とはいえ、数十万人の単位で働いている、こうした海外の労働者たちの面倒を出身国の大使館がみるといっても、自ずと限界がある。
サウジアラビア最大の建設業者といえば、有名なビンラディン・グループであろう。この会社を筆頭に、他の建設会社も軒並み、この2年間は外国人労働者に賃金を支払えないという状況が続いているというから驚く。給料未払いのまま本国に帰国する出稼ぎ労働者たちの不満は、頂点に達している。
これら南アジアの国々とサウジアラビアの関係が悪化し、更なるテロに結び付くような事態も懸念される。今回のサルマン国王はモルディブはじめ南アジア諸国にも足を運ぶ予定であり、こうした国々との関係修復も視野に入れているに違いない。
これまで、有り余る石油から得られる富を背景に、豊かな王国を築いてきたはずのサウジアラビアである。とはいえ、イエメンとの間で、終わりの見えない戦争状態に入ったことも災いし、石油の売り上げで蓄えた国家の資産も、非生産的な戦争のために使われ、国家財政を火の車にしてしまった。
サウジアラビアはイエメンとの戦争を継続するため、アメリカをはじめ西側諸国から大量の武器や弾薬を輸入している。中国からも精度に問題があると指摘されている東風型ミサイルを購入。サウジによる空爆でイエメンでは1万人以上が死亡し、多数の負傷者が出ている。しかし、戦争終結の兆しは一向に見えてこない。
こうした戦争遂行に関する莫大な財政負担もサウジアラビアにとっては大きな足かせとなっているようだ。隣国イエメンとの戦争に関しては、国連の場においてもサウジアラビアは非難を受けており、このままでは国際社会からも孤立しかねない状況だ。内憂外患の王国に活路は見いだせるであろうか。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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