サウジアラビアの新経済改革「ビジョン2030」と日本(3)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
サウジアラビアの株式市場では、一昨年以来、株価の下落が相次いでいる。こうした状況を受け、サウジアラビア政府は大臣をはじめ、国会議員にあたる諮問評議会議員の給料やボーナスを20%近く大幅に削減するという緊縮政策を始めざるを得なくなった。公務員の超過勤務手当や有休休暇にも制限が加えられ、国民向けの電気、水道、ガソリン代に関する補助もカットされることに。
何しろ、国家財政の赤字は年間1,000億ドルを超えるまでに膨らんでいる。これまで税金とは無縁のサウジであったが、事ここに及んで、新たな徴税が検討されるようになってきた。いずれにせよ、このままではサウジの“突然死”もありうるという危機的状況といえよう。
原油価格の下落によって、被害を受けているのはサウジアラビアに限らない。世界各国の油田開発業者や石油関連企業の間でも、経営不振や倒産に至るケースが増え始めた。2015年だけで、その数は17社に達した。2016年も更に増えた模様だ。そうした影響もあり、サウジアラビアでは国民の8割を占める公務員の間でも自国の将来に対する不安感が広がっている。
イスラム教の教えの下、アルコールやギャンブルは厳しく制限されているお国柄であるため、サウジアラビアの中流階級の国民にとって最も人気の高い娯楽は、外食であった。しかし、このところ外食には出かけるものの、注文する量を減らすなど、出費を安く抑えようとする動きが顕著になってきたという。インフレが加速し、4%近くになったことも国民の間に不安感を高める要因になっているようだ。
正に国家存亡の危機的状況に陥ったのがサウジアラビアである。この状況を突破しようと副皇太子モハンマド・ビン・サルマン氏が経済改革の狼煙を上げた。「サウジ・ビジョン2030」と題する経済改革の青写真を発表し、「2030年までに、脱石油の国家づくりを目指す」というのである。
その目標を達成するため、32歳の若き副皇太子は中国と日本に協力を要請することにした。2016年8月末から9月頭にかけ、日本を訪れ、安倍総理との間で自国の経済改革に対する取り組みを説明し、日本からの技術移転や投資を要請した。同じことを、この皇太子は中国の杭州で開かれたG20の場でも、各国の首脳に対して要請して回った。
このサルマン副皇太子は、サウジアラビアの国防大臣と経済担当大臣を兼務している。将来の国王の最有力候補でもある。彼の目標とする2030年までに、脱石油の国づくりを成功させるためには、女性の活用を含め、徹底的な人材育成が欠かせないと思われる。これまでは、石油のお陰で多くの若者たちは、それほど熱心に働く必要もないまま、教育費も医療費も住宅費も無料という夢のような生活を享受してきた。しかし、全てをゼロからやり直す必要に迫られたわけである。いまだに女性には車の運転が認められていないサウジにとって厳しい船出といえよう。
今後15年間で新たに600万人の若者が就業年齢に達する。彼らに就職口を準備しなければならないサウジとすれば、2030年までにGDPを倍増し、新規雇用者数を600万人にするという経済改革に挑戦せねばならないというわけだ。その目標を達成するため、今後5年間で720億ドルの政府資金を投入する計画が練られている。サルマン副皇太子の手腕が期待されているが、その前途は容易ではないだろう。父親のサルマン国王とすれば、何とか息子の進める野心的な「国家改造計画」を後押ししたいと願っているわけだ。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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