朴槿恵大統領失職 韓国の「法治」は「政治」である(前)
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韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領をめぐる弾劾問題は、憲法裁判所による審議の結果、8−0で「弾劾成立」で決着した。予想された決定である。火中の女性大統領自身が、スキャンダルの浮上後、再三にわたって「国民への謝罪」を行っていたのだから、すでに勝負は決していたと言ってよい。次期大統領レースで先頭を走る野党の文在寅(ムン・ジェイン)氏は、ばりばりの「親北」政治家である。だが財産管理は「清潔」とは言いがたい。彼が秘書室長として仕えた盧武鉉大統領らと同様に、親族のスキャンダルが浮上する可能性がある。糾すべきは、権力闘争に明け暮れる韓国の政治至上主義そのものなのだ。
憲法裁判所の李貞美(イ・ジョンミ)所長代行は「この判決が国論分裂と混乱を終息させ、和合と治癒の道に進む土台になることを願う」と述べた。彼女が「国民和合のための判決」と言ったのは、判決が事実上の政治行為であることを認めたものだ。私が「韓国の法治の実体は政治である」と判断する根拠である。
憲法裁判所が認定した弾劾事由は、実は、ひとつしかない。判決は、朴大統領が政府系財団の設立などの意志決定に関与し「崔被告の利益のため、大統領の地位と権限を乱用した」と判断した。朴大統領が青瓦台(大統領府)の公文書を秘書官が崔被告に流出させるにあたり、介入した嫌疑が認められるとした。朴大統領がこれまで、検察や特別検察の捜査に応じなかったことに言及し、今までの言動を見るに「憲法順守の意志が示されていない」と指摘した。
憲法裁判所はこうした点が、「到底容認できない、重大な憲法・法律に違反する行為」とする結論を出した。しかし、崔被告との「不適切な関係」に関しては、大統領自身も認めて謝罪していた事柄だ。だから、これは「法治が政治を追認」したことでしかない。
今の韓国には、失敗した政治は、失敗した法治を招くという言葉がふさわしい。
韓国における「法治と政治」に関して、もっとも鋭利な分析を行ったのは、朝鮮日報の鮮于鉦(ソンウ・ジョン)論説委員だ。彼は3月5日付のコラムで、韓国政治には妥協を拒否する権力闘争病が蔓延していることを指摘した。
ポイントは、大統領が「任期短縮を含めすべてを国会の合意に任せる」と述べた3回目の国民向け談話だった。この時、政界の元老たちが「4月退陣、6月大統領選挙」案を提示した。大統領や与野党が「決意さえすれば妥協できたはずだった」と彼は指摘する。
しかし、「この提案を野党は即座に蹴った。決定権を握っていた与党の非主流派は、ろうそく集会に参加する弾劾賛成派たちの顔色をうかがって野党側についた」。この結果、国会弾劾というステップに進み、さらに国家の一大事が、わずか8人の憲法裁判所判事の判断に委ねられるという事態を招いたのだ。彼の主張は、韓国の新聞をそれなりに読んでいた者には、首肯されるものである。
「国民和合」は本来、政治的に追及されるべき行為だ。しかし韓国の場合は憲法体制上、最終的に法的判断に委ねられている。その実情を、今回の事態は明らかにした。つまり韓国は「政治万能」社会なのである。権力奪取を本筋とする政治行動は、社会内部に極限対立を生む。
そういう現実を前にしても、韓国の政治家は能天気であると言うしかない。
(つづく)
<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短期大学教授(マスメディア論、現代韓国論)を歴任。国民大学、檀国大学(ソウル)特別研究員。日本記者クラブ会員。
メールアドレス:simokawa@cba.att.ne.jp関連記事
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