サウジアラビアの新経済改革「ビジョン2030」と日本(4)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
さて、今後のエネルギー環境を展望すれば、世界的にグリーン・エネルギー革命が進行していくことは一目瞭然だろう。温室効果ガスを減らすためにも、異常気象を回避する上でも、石油依存から再生可能エネルギーへの移行を強力に図らねばという世界的なコンセンサスが得られるようになった。そのため、マイクロソフトをはじめ、IT業界や自動車産業においても、脱石油の動きが加速する一方である。ますますサウジアラビアのような石油依存の体質では生き残っていけない時代に差し掛かっているわけだ。
そこで副皇太子は、世界最大の石油会社、アラムコの株を上場させることで、国内経済の方向転換に必要な資金を確保しようとの構想を温めていると思われる。アラムコを東京市場で株式上場し、その上場益で新たな投資ファンドを立ち上げ、その資金で人材育成やITと医療を組み合わせた新たな産業をサウジアラビアに根付かせようという構想である。アラムコの上場は、2017年を想定しているとのこと。孫正義氏の率いるソフトバンクもこの大型上場案件には450億ドルのIT投資を通じて深く食い込んでいる。
しかし、東京市場での上場が実現するか、中国の上海市場での上場が実現するか、どちらが実現するのかは予断を許さない状況が続いている。なぜなら、中国と日本を訪問した副皇太子はその後ニューヨークで開催された国連総会にも顔を出し、日本政府に対して協力の要請を重ねて行ったのであるが、安倍総理の同行筋からは期待したような返事が得られなかったという。そのため、副皇太子は日本に対する不信感を強めたようだ。
このままでは、中国での上場が具体化しそうな雲行きである。実は、中国はアメリカと肩を並べる石油の輸入超大国となっている。近年の原油価格の下落を背景に石油の戦略備蓄を徹底的に進め、今では世界最大の石油備蓄国になっているからだ。中国各地に2,100カ所を越える戦略、商業石油備蓄基地を構築している。
近い将来石油価格が上昇に転じた場合には、こうした安値で仕入れた原油を高値で売りさばくという芸当を中国は考えているに違いない。そうした意味でも、中国はサウジアラビアとの関係強化に日本以上に積極的に取り組んでいるわけだ。今回のサルマン国王の訪中でも習近平国家主席との間でさまざまな合意が得られたものと目される。
いずれにせよ、サウジアラビアが2030年までに経済改革をどこまで成し遂げることができるかどうかは、世界経済にとっても大きな影響を及ぼすことは間違いない。2030年までにサウジアラビアは、イスラム文化圏の最大の保護者として国内に世界最大のイスラム博物館を建設する計画を準備中だ。何しろ、イスラム人口は全世界で40億人に達する勢いで増えている。中国とインドを足しても及ばない人口だ。
この巨大なイスラム人口を味方につけない手はない。メッカとメジナという2大聖地を国内に有するサウジアラビアは、宗教を武器にした新たな国づくりにも狙いを定めている。マレーシアからだけで毎日平均すると3,200人の巡礼者がサウジアラビアを訪問しているほどだ。観光資源としての開発の余地は巡礼地に限らず、紅海周辺にも眠っている。ディズニーランドのアラビア版を建設する計画も進行中といわれる。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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