朴槿恵大統領失職 韓国の「法治」は「政治」である(後)
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次期大統領レースの先頭を走る文在寅氏は、憲法裁判所の朴槿恵大統領罷免決定に対し、「きょう我々は憲法第1条の崇高で峻厳(しゅんげん。非常にきびしいこと)な価値を確認した」と述べた。文氏は憲法第1条の「大韓民国は民主共和国だ。大韓民国の主権は国民にあり、すべての権力は国民から出てくる」という点を強調した。
しかし、思い出すがいい。彼の盟友でもあった盧武鉉大統領は退任後、妻と息子が収賄疑惑で捜査に追い込まれ、飛び降り自殺をした。
文在寅氏自身も、20兆ウォン(約2兆円)の手形秘資金疑惑があり、手形証明写真と告発動画がネットで公開されている。文氏は東京ドームとほぼ同じ面積の高級住宅地を所有しているといわれる。そんな巨富にもかかわらず、一般庶民の不満を刺激する扇動政治を行っている。
文氏はあきれたことに、フェイスブックで「偉大な国民の力で歴史は前進する」と述べた。私は、韓国政治は30年前の「民主化宣言」当時に逆戻りしたと見る。彼は「大韓民国はこの新たな驚くべき経験の上でまた始まる」と主張した。なんという自画自賛であろうか。
彼は「全世界の民主主義の歴史に記録される平和な広場の力が統合の力に昇華される時、大韓民国という名前と大韓民国の国民というものがよりいっそう誇らしくなる」とコメントした。
これに対しては、私もフェイスブックでコメントしておいた。
「毎度の自画自賛だもんなあ、と呆れてしまいます。外国人からは、冷笑されている事態なのに、何言ってんだか。もう、大統領になったような気分なのかしら」
民主主義の成熟度を測る尺度は何か。政治家の大言壮語で、国民は幸福になれるのか。これが私の韓国政治の現状に対する最大の疑問だ。お祭り(権力闘争)が終わって、また、別のお祭り(権力闘争)が始まる。ジェットコースターの歓声が消えた時、運転席は空白となり、3人の老人が死んでいたのである。
女性大統領への不信を煽るばかりだった韓国の大手紙も、ここに来てやっと、まともなことを書き始めた。
中央日報のイ・チョルホ論説主幹いわく。「憲法裁判所が下した姦通罪・死刑制度・堕胎禁止・首都移転など主な判決には共通分母がある。裁判官の傾向よりも、一般国民の世論に忠実だったという点だ」。
弾劾決定もそうでしたね。
「問題は、今後5年間、次期大統領が花道を歩くより勝者の呪いにかかるかもしれないということだ」「もしかしたら次期大統領は積弊を除去する前に、積弊に踏み付けられ息が詰まるかもしれない。(中略)。勝者の呪いに加え、紅衛兵の影までちらつくなら、並大抵のことではない」。
次期大統領も前途多難だということである。
(了)
<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短期大学教授(マスメディア論、現代韓国論)を歴任。国民大学、檀国大学(ソウル)特別研究員。日本記者クラブ会員。
メールアドレス:simokawa@cba.att.ne.jp関連記事
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