サウジアラビアの新経済改革「ビジョン2030」と日本(5)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
また、中東とアジア、ヨーロッパ、アフリカを結ぶ戦略的な要衝の地を占めているため、サウジアラビアは交通や物流の中心地としてインフラ整備にも取り組む考えを温めている。この点、中国が進める「一帯一路」計画とは相性が良さそうだ。実は、今回のサウジ国王のアジア歴訪の注目点の一つはインド洋の島嶼国モルディブ訪問である。地球温暖化の影響で水没の危機に瀕しているモルディブに対して、サウジアラビアは多額の投資を行い、住宅地の安全を確保する見返りに、同国の領海内1,000キロ四方に自由航行権を獲得する考えを秘めている模様。シーレーンの要衝を確保する戦略に違いない。
加えて、サウジの進める脱石油の未来図の中には、省エネや再エネといった視点も織り込まれている。もちろん、石油以外の天然資源も北部を中心に豊かである。リン酸鉱物や亜鉛、ボーキサイト、金や高品位のシリカも確認されている。こうした資源開発に成功すれば、サウジの未来図は明るいものとなるだろう。
このような具体的な未来ビジョンを実現する上で、日本も中国も独自の経済戦略に則り、さまざまな形でビジネスチャンスに結びつけようと動いている。ところが、せっかく副皇太子が安倍総理との間で、経済技術交流に関する基本合意に達したにもかかわらず、その後のフォローで躓いてしまっているのは、実に残念である。
昨年10月には、サウジアラビアの首都リヤドで、初の日本サウジ経済協力会議が開催された。日本側は何とか態勢の立て直しを図り、サウジアラビアの期待に応えるべく、積極的な提案を試みたようだが、肝心のサウジ側の反応はいまひとつであった。何しろ、日本の提案は、これから1年をかけて計画を詰めたいというもの。
いくら何でも時間をかけ過ぎであろう。サウジ側は日本の本気度を疑っている。これでは中国やロシアの後塵を拝すだけで終わってしまいかねない。日本とアラブ世界のビッグプロジェクトを砂漠の蜃気楼で終わらせてはならない。そのためにも、今回のサルマン国王の来日をどのように態勢立て直しに活かせるか。安倍総理の手腕はもちろんトヨタをはじめとする日本企業の本気度が問われる。
サルマン国王は日本と中国からインフラ整備に係る運輸、建設、金融サービス分野での協力を求める意向を明らかにしている。ここでも日本と中国を競わせ、有利な条件を引き出そうとする巧みなサウジ王室外交の片りんが伺える。ある意味、今回の国王のアジア歴訪は「サウジアラビアのソフトパワーの見せ場」といっても過言ではない。しかも、史上最大規模の試みだ。中国では習近平国家主席が最大の歓待ぶりを見せているが、安倍総理はどのような切り札を用意し、この歴史的訪問を受け止めようとしているのだろうか。その成果を大いに期待したいものだ。
(了)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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