従来の会計業界の殻を破り、中小企業の「経営」を守る(後)
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税理士、弁護士、社労士、司法書士、行政書士等々数多くの士業の垣根を越えて、フォーラムやさまざまなセミナーを手掛ける楠本グループ。忘れかけている日本人としての誇りを取り戻し、経営に活かすことで企業の存続を呼び掛ける。揺れ動く日本経済のなかで、「士業の本来の役目とは一体何か」。従来の会計事務所の仕事にとらわれず、M&A・組織再編・アジア進出・公益法人を活用した経営支援業務などを手掛ける(株)楠本浩総合会計事務所の代表取締役社長・白川正芳氏に話を聞いた。
(聞き手:弊社執行役員 緒方 克美)
一事務所の垣根を越えて
――楠本グループは、創業64年の歴史があります。他の事務所との違いはなんでしょうか。
白川 「理念」と「目的」が明確に存在することです。よって当グループでは税務申告は、あくまでも業務のベースとして捉えています。これは、「経営そのものに踏み込んでいく」という、先代(創業者 楠本住雄氏)から受け継ぎ、現代表の楠本浩之が明確に体現した文化です。税理士法第一条(※)の「税理士の使命」を遵守するのは当たり前。大事なことは「税理士法第一条に留まらず、経営者の限りない無限の要求に応えていくべく、我々は日々研鑽しなければならない」と弊社創業の職員手帳の最初の項目に書かれています。これが楠本グループのスピリッツなのです。「現行のサービスに胡坐をかいてこれを提供すれば良いのではなく、クライアントの問題を、一緒にどう解決していくかを常に考える」という発想で社員全員が取り組んでいるからこそ、他とは違う税理士事務所として成長してきたのだと考えています。
急速にAI化が進む時代です。いずれ、税務申告書作成の仕事は確実にAIに取って代わられることになるでしょう。これからは税理士業界も、申告書をクライアントにアウトプットするだけの商品として捉えず、企業の情報をインプットするための申告業務と捉え、さらに、経営に役立つものを発信するように切り替えていかなければ生き残れません。税理士業界にとっては正念場です。弊社は64年前から、「税理士法第一条を止揚して、限りない経営者の無限の要求に応える」ことが会社の方針ですので、舵を切りやすかったといえます。
――他のM&Aの会社との違いはなんでしょうか?
白川 そもそもビジネスとしてM&Aを行うという発想ではないことです。我々は顧問報酬がベースにありますので、必ずしもM&Aだけでビジネスを成立させる必要がありません。あくまで会計事務所という立ち位置で、「中小企業の経営に貢献するための手段」だと考えています。企業が継続・発展するということは、会計事務所が存続・発展するということでもあります。
弊社は4年前の方針発表で、代表の楠本が原則「新規の税務顧問先はとらない」と宣言しました。申告代理業務の増加はリスクも増加させます。またレッドオーシャン市場のため、顧問料のたたき合いのような状況ですので、明るい未来を望むことは難しい。今後は、M&A、事業承継、相続対策、セカンドオピニオンサービスなど、より高い知的業務に付加価値を見出していく戦略に切り替えるべきだと考えています。
また、代表の楠本は2000年に「全国会計人共同体」(現:アジア士業共同体)という団体を立ち上げました。日本経済の根底を支える中小企業がより成長していくためには、中小企業に関与している会計業界がもっともっと成長しなければならないという考えに賛同する先生方と長年にわたり、研究を続けてきました。セミナーや研究会では、弊社の成功例を無料で開放しています。当グループだけでは、とても全ての中小企業をサポートすることはできませんので、研究会で意見交換しながら目的の共有を図っています。当初200人程度の集まりから、現在は600名程度までネットワークが広がり、シンガポールを中心とした東南アジアの士業を含めると、総勢で1,000人を超えるネットワークになります。「グローバル・経営者フォーラムin九州」もそうですが、膨大な運営資金や労力を使いますが、利益はほぼ皆無です(笑)。
――なぜ利益にならないと知りながら、この事業をされているのでしょうか?
白川 「目的」があるからです。利益を出すことが目的ではなく、利益は「目的」のために使うものであり、「目的」のために絶対に必要なものが「利益」なのです。弊社の目的は、「中小企業の経営のパラダイムを変える」ことであり、目的と仕事が統合されているからだといえます。そのために、まず弊社が、つまり我が社の社員1人ひとりが価値観を変えて成長し、クライアントの限りない無限の要求に応え、中小企業を支えていかなければなりません。
出た利益を“何に使うか”で企業の本質が問われると考えます。経営者の私腹を肥やすのではなく、利益を目的のために使うことこそが、価値があると考えているからこそ、大変な業務にも関わらず、社員もついてきてくれるのだと考えています。
――今後もぜひ、会計業界を牽引してください。
白川 税理士の先生方のなかには「M&Aのような余計なことはせず、申告書を書くのが仕事」と考える方もいます。ですから今日も清算依頼を受けて、ただひたすら清算手続きをしている税理士事務所がたくさんあります。しかし税理士は、クライアントの存在によって存在し、クライアントは従業員や地域、関係会社の存在によって存在する。1つの企業が終わってしまうことでどれだけ影響があるのかということを、一人でも多くの税理士に気付いてもらわなければなりません。そうでないと、これまで「100年企業」を多く生み出してきた日本の経済文化も潰えてしまうでしょう。我々が行動することで、1人でも多くの会計人に「これからの役目」に気付いてもらいたいと考えています。
(了)
【文・構成:中尾 眞幸】※税理士法 第一条 (税理士の使命) 税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。
<COMPANY INFORMATION>
代表取締社長:白川正芳
所在地:福岡市中央区天神3丁目1−1
設 立:1989年3月
資本金:2,000万円
TEL:092-724-0110
URL:http://www.ksgroup.jp/<プロフィール>
白川 正芳(しらかわ・まさよし)
1974年8月生まれ。1998年(株)楠本統合戦略マネージメント入社。(株)楠本浩総合会計事務所へ転籍後、楠本税理士事務所へ7年間出向。社内内部役員として顧客の支持を集め、2009年に(株)楠本浩総合会計事務所代表取締役社長に就任。一般財団法人日本相続学会所属。(一財)M&Aで日本を再編成する会理事。関連キーワード
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