2024年12月28日( 土 )

予算案スピード通過~財政は野となれ山となれ!(2)

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参議院議員 藤巻健史氏

市場が警戒警報「長期金利の上昇」を鳴らす

 ――政治家の暴走を許さない、「財政規律」を守らせることができる市場(マーケット)のチェック機能とはどのようなものですか。易しく教えて頂けますか。

 藤巻 政治が財政赤字の極大化を防止できなくても、市場原理の働く真の資本主義国家であれば市場が防止してくれます。財政出動やばら撒きを行うと市場が「長期金利の上昇」という警戒警報を鳴らしてくれるからです。

 例えば、政治家が国債を乱発して、橋や道路を作り、商品券をばら撒いて景気対策をしたとします。すると、真の資本主義社会では、市場が「長期金利の上昇」という手段によって、「国債の供給過多で国債の価格は下がって(=利回りは上昇)、景気に悪影響を及ぼしますよ」と警告してくれるのです。

市場原理の働かない機関が国債市場で跋扈する

 しかし、日本では市場原理の働かない(=長期金利のレベルに関係なく国債を購入する)機関が国債市場で跋扈しています。昔は旧大蔵省資金運用部、郵貯、近くはゆうちょ銀行、そして最近では日銀です。彼らは価格に関係なく国債を購入します。今もし米銀がほぼゼロ金利の日本国債を買えば、株主から、「ゼロ金利の日本の国債などかって、何を考えているのだ。海外のGDPがどんどん伸びている国などに投資して、もっと高いリターンを狙え」と叱責を受けます。しかし、日銀にとっては利回りなどどうでもいいのです。国債購入で儲けようなどとは微塵にも思っていません。それが目的でないからです。従って、国債がどんな利回りでも、何の抵抗もなく買っています。これでは市場の警戒警報が鳴るわけがありません。

外国人にとって全く魅力のない商品なのです

 付け加えて申し上げるならば、「ほとんど日本人しか日本の国債を持っていないので、日本の財政は破綻しない」とまことしやかに言われることがあります。これは、とんでもない間違いです。「日本人しか日本の国債を持っていない」ことと日本の財政の健全性とは全く関係がありません。最も身近な例で言えば、第2次世界大戦敗戦後の戦時国債も今と同様にほとんど国内で消化され、国民は債権者でしたが、ハイパーインフレで紙くず同然になりました。

参議院議員 藤巻 健史 氏

 それより、なぜ「日本の国債は日本人だけしか持っていない」のかの意味を考えることが重要です。その答えは簡単です。外国人にとっては、日本の国債は全く魅力のない商品だからです。国債の入札と言うのは、「まず日本人に優先して売却して、その後余ったものを外国人に売却する」のではありません。日本人も、世界中の外国人も同じスタートラインに立って「ヨーイドン」で発売されるのです。外国人投資家は、「こんなにも借金が多いのに、金利が低すぎるのではないか」と判断し、専門用語で言えば、信用リスクが全く上乗せされていないと見なし、買わないのです。

 市場原理の働かない日銀が約8割(2016年度は政府が国債を約150兆円発行、そのうち日銀が120兆円買っている)も買っていれば、外国人にとって魅力のないレートまで金利が下がる(=価格が上昇する)のは当たり前です。これは、もう1つ別の面で、あまり良いことではありません。それは、市場の参加者が多様化していないと、相場が崩れた際、買い手が現れないという極めて脆弱な市場になってしまうからです。もし、日銀が売却に走った場合(そんなに遠い将来の話ではありません)、相当に金利が上昇しないと外国人は参入して来ないと考えられます。

警戒警報の電源を切り、一時的安心感を得る

 「赤字国債」は財政法第4条で禁じられています。そこで、赤字国債を発行するためには、財政法の上に立つ「特例公債法」(「赤字国債を認める」)を定める必要があります。これは従来、毎年厳しい審議の上、総理の首を差し出して、やっと成立していたものでした。ところが、2012年3党(自民、公明、民主)合意で、赤字国債発行法案修正(15年まで自動的に発行できる)を認めてしまいました。さらに、2015年の秋の臨時国会では、政府は「特例公債法」を3年から5年に自動的に延長できる法律まで作ってしまったのです。
また、日銀の内部ルールで「日本銀行が引き受ける長期国債の総額を日本銀行券の流通残高以下に収める」という規定があります。ところが、これも2013年4月より、日銀の「異次元の質的量的金融緩和」に伴い、積極的な国債買い入れを進める目的で一時停止されてしまいました。

 これらは電車の運転手が「過密ダイヤでATS(自動列車停止装置)がしょっちゅう鳴り、うるさくてしょうがない」ので勝手に電源を切ってしまった、という行為に等しいものです。その結果、警戒警報が鳴らず、運転手の注意不足による追突大事故を起こしたニュースは多くの方の記憶にある通りです。毎年審議される「特別公債法案」のプレッシャーこそが、時の首相を財政再建に駆り立てていたのです。それを抜本的解決ができないので、諦めて警戒警報スイッチを切ってしまい、一時的に安心感を得ようとしているわけです。これは、日本の財政状況と同時に政治も末期的であることの現れと言えます。

(つづく)

【金木 亮憲】

<プロフィール>

藤巻 健史 氏藤巻 健史(ふじまき・たけし) 参議院議員(日本維新の会)・経済評論家
 1950年東京生まれ。一橋大学商学部卒業後、三井信託銀行に入行。80年に行費留学してMBAを取得(米ノースウェスタン大学大学院・ケロッグスクール)。85年モルガン銀行入行、東京支店長を経て2000年に退行後、フジマキ・ジャパンを設立。世界的投資家ジョージ・ソロス氏のアドバイザーなどを務める。2013年の参議院選挙で当選、現在に至る。1999年から2011まで一橋大学経済学部で、02年から08年まで早稲田大学大学院商学研究科で非常勤講師として毎年秋学期に週1回半年間の講座を受け持つ。日本金融学会所属。東洋学園大学理事。

 

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