2024年11月24日( 日 )

誰が日本の高齢者を殺そうとしているのか(5)

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第3回 夫婦ともに医療過誤! あり得ない現実に戸惑う仲間たち(後)

 2週間後の19日、田園都市線青葉台近くの葬祭場で徳井邦正の通夜が行われた。一流企業のOBとしてはいささか勝手の違うこぢんまりとした通夜だった。妻の医療過誤裁判以来、付き合う人間関係が激変したのだろう。焼香後、別室でお斎(とき)をいただいた。医療過誤原告の会のメンバーが主流で、一般の弔問客の数が少ない。地下鉄サリン事件被害者の会代表高橋シズヱさんの顔も見えた。武村は数回裁判の傍聴を通して彼らの何人かを見知っている。しかし、竹馬の友を送る雰囲気とはほど遠い。早々に葬祭場をあとにした。「両親とも医療過誤で死亡」という現実に対し、残されたふたりの息子は、両親に代わって裁判闘争を続けるものと思われる。要請があれば側面から支援していくつもりだ。

 公益財団法人「日本医療機能評価機構」(2016年8月29日)の発表によると、全国の医療機関による医療事故は一年間に3374件とある。もっとも医療事故という概念は、「医療の過程において発生した事故。医療従事者の過失による医療過誤や、不可抗力による事故など」(「スーパー大辞林))とあり、医療過誤はその中に含まれる。医療過誤とは、「診断・治療の不適正、施設の不備等によって医療上の事故を起こすこと。誤診・誤療などがその例。刑事上・民事上の責任を問われる」(「広辞苑」)とあり、性質上正確な数字は出にくい。ただ、徳井の場合は、慈恵医大側が謝罪しているという状況を考えると、医療過誤として認めたことになるだろう。

 昨年7月、群馬大病院で同じ男性医師による腹腔鏡手術により10人以上の患者が死亡した事件など、病院側による医療事故が耳目を集めた。一方で、過失ではなく明らかに殺意を持って事件を起こす場合も少なくない。昨年、10回にわたり詳報した「川崎老人ホーム転落殺人事件」。川崎市にある老人ホーム「Sアミーュ川崎幸町」で、一昨年末にかけ、3人の入所者を階下に投げ落とした介護職員・今井隼人(当時23歳)の事件だ。彼は窃盗の容疑事実を隠蔽するために高齢入所者を殺した。昨年10月、横浜市神奈川区にある大口病院内で、高齢の入院患者ふたりが、消毒液を混入された点滴液で中毒死させられた事件がある。限られた人間の犯行という疑いがあるものの、動機面から容疑者の絞り込みが困難とされ、未解決のまま今に至っている。「大さんのシニアリポート」で再三報告している「親を捨てる」という現実。高齢者は医者からも、看護師・介護職員からも、身内からも捨てられる(殺される)現実が、そこにある。

(了)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。

 
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