2024年12月29日( 日 )

予算案スピード通過~財政は野となれ山となれ!(4)

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参議院議員 藤巻健史氏

唱えた当時は奇人・変人の扱いを受けました

 ――先生は「異次元の質的量的金融緩和」(異次元緩和)には大反対で、「マイナス金利政策」を提唱されていました。「マイナス金利政策」とはどのようなものですか。

 藤巻 私が10数年前、「マイナス金利政策」を唱えた時は奇人・変人のような扱いを受けました。しかし今では、ECB(欧州中央銀行)がすでにマイナス金利政策を導入、日銀も導入することになりました。

 「マイナス金利政策」とは、民間銀行が「日銀当座預金」(日本銀行が取引先の民間銀行などの金融機関等から受け入れている当座預金のこと)口座に「残高を積むなら罰金を払いなさい」という政策です。異次元緩和では「日銀当座預金に残高を積めば+0.1%をもらえた」のに、マイナス金利政策では逆に「残高を積めば罰金を払う」ことになるのです。私は三井信託銀行のロンドン支店勤務時代(1982年~85年)にスイスの中央銀行がマイナス金利政策を採ったのを目のあたりにしました。目から鱗でしたが、一般的には「常識はずれ」のように思えても、「これはありうる政策だ」と思いました。

マイナス金利政策は伝統的金融政策の延長線上に

参議院議員 藤巻 健史 氏

 簡単にご説明しますと、皆さんが民間銀行を利用するように民間銀行は日銀当座預金をよく利用します。民間銀行の本・支店には最小限の現金しかありません。私が入行した邦銀の支店は、現金を数百万円しか保有していませんでした。毎日、多額の現金がおろされますが、その一方、多額の入金もあります。銀行はその差額と多少のバッファー分の現金を保有しているだけです。

 異次元緩和とは、実質的には「民間銀行の日銀当座預金が増える」ことを意味します。つまり、民間銀行は、預かったお金は融資に回すか、他行に貸すか、国債購入などの運用に回すか、そして日銀当座預金口座に預けるしか、選択肢がないのです。全部を現金で所有することなどはできないのです。ここに、マイナス金利政策の効果が成立する根拠があります。

 「マイナス金利政策」は「預ければ金利を取られる」という常識に反する政策のように見えます。しかし実は、効果も副作用もすでに経験、実証されている伝統的金融政策の延長線上にあります。
例えば、「家を建てるために銀行から融資を受けると、毎年銀行から金利を1%もらえる」(住宅減税と同じ)なので、家を建てようという人、融資を受けようという人が増えて、市場にお金が回り始めます。また円安/ドル高が進むことも最大のメリットです。マイナス金利が為替に効くことを、フィナンシャルタイムズも認めています。

異次元緩和の最大の問題点は出口がないことです

 一方の異次元緩和の方は、学問的にも実務的にも効果が検証されていません。それに最大の問題は出口がないことです。

 異次元緩和政策とは、「日銀当座預金が極大化すれば、お金が銀行間市場から流れ出ていくだろう」という発想に基づくものです。ですから、その発想からして、日銀当座預金残高の「極大化政策」です。しかし、過去の金融緩和、現在の金融緩和いずれにおいても、マネタリーベース(日本銀行券発行高+貨幣流通高+日銀当座預金)は増えましたが、資金需要がないので、マネーストック(金融部門から経済全体に供給されている通貨の総量)はそれに比して、ほとんど増えず失敗しました。

 一方、「マイナス金利政策」とは、「日銀当座預金残高にペナルティーをかける。すなわち大きな残高を持つと、罰金を払わされる」のですから、日銀当座預金残高の「極小化政策」です。この2つの政策は180度異なります。従って、論理的に「異次元の質的量的金融緩和」をやった後での、「マイナス金利政策」は全く意味を成しません。

 マイナス金利政策は、今世間的には不評のようです。しかし、それはマイナス金利政策自体がまずいのではなく、ゼロ金利の後、すぐにマイナス金利政策を導入せず、異次元緩和という余計なことをやってしまったことが敗因です。私は最初からマイナス金利政策を採用していたら、副作用もなく、景気は今頃回復していたと思っています。

長期国債を爆外したので長短金利差がなくなった

 さらに黒田総裁の行った「異次元の質的量的金融緩和」の大問題は「質」的緩和の部分で、10年債、30年債という長期国債の爆買いを開始したことです。

 銀行の利益の多くは短期で調達したものを長期で運用することによって得ています。米国では1970年代後半に、S&L危機(※)という金融危機がありました。その際、FRB(連邦準備制度理事会)は長期金利を拡大する政策を採り危機を乗り切っています。すなわち、イールドカーブ(※)をより右肩上がりに立て直したのです。預金金利が0%でも長期金利が十分高ければ、銀行は利ざやが確保できます。

 しかし、日銀の場合は、長期国債を爆買した結果、その価格は上昇(=長期金利は低下)して、長短金利差がなくなりました。すなわちイールドカーブが寝てしまったのです。その上で、マイナス金利を導入したので、長短金利差は縮小どころか逆転してしまいました。これではマイナス金利のさらなる深堀は、金融システムリスクを発生させ、銀行株の下落は株式市場の足を引っ張る可能性さえあります。これは完全に政策ミスです。

【S&L危機】
 米国の1980~90年代に貯蓄金融機関(S&L)の破綻が続出した事態のこと。S&Lは預金を集めてリスクの低い住宅融資に特化していたが、70年代のインフレで経営悪化。米政府の規制緩和で多数のS&Lが投機的な事業に走り破綻した。

【イールドカーブ】
 縦軸を金利(利回り)、横軸を期間(残存期間)として、期間に対応する利回りをプロットしてゆき、その点をつなぎ合わせて描かれる、利回りと残存年数の関係を表す利回り曲線(金利曲線)。

(つづく)

【金木 亮憲】

<プロフィール>

藤巻 健史 氏藤巻 健史(ふじまき・たけし) 参議院議員(日本維新の会)・経済評論家
 1950年東京生まれ。一橋大学商学部卒業後、三井信託銀行に入行。80年に行費留学してMBAを取得(米ノースウェスタン大学大学院・ケロッグスクール)。85年モルガン銀行入行、東京支店長を経て2000年に退行後、フジマキ・ジャパンを設立。世界的投資家ジョージ・ソロス氏のアドバイザーなどを務める。2013年の参議院選挙で当選、現在に至る。1999年から2011まで一橋大学経済学部で、02年から08年まで早稲田大学大学院商学研究科で非常勤講師として毎年秋学期に週1回半年間の講座を受け持つ。日本金融学会所属。東洋学園大学理事。

 
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