2024年11月13日( 水 )

ホワイトハウスの「権力闘争」のさなかに起きたシリア攻撃(3)

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SNSI・副島国家戦略研究所 中田安彦

 話がそれてしまったが、今のホワイトハウスの内戦は、大きく分けて4つの勢力が主導権を争っているとみていい。(1)オルトライト保守派(バノン)(2)ニューヨーク主流金融財界人派(クシュナー)(3)議会派(ペンス、プリーバス)(4)軍人たち(マクマスター国家安全保障担当補佐官ら)である。
 そして、バノンを支えていたのはニューヨーク財界人でも、大銀行ではなくヘッジファンド経営者のロバート・マーサーと保守系シンクタンクヘリテイジ財団の理事であるレベッカ・マーサーで、マーサー家がバノンを有名にした「ブライトバート」という保守系ニュースサイトの大株主としてトランプ当選を支えた。彼らはトランプの前は宗教保守派のテキサスのクルーズ上院議員を支持していた。

 大銀行からはクシュナーと近い、ゴールドマン・サックス出身のゲイリー・コーン国家経済議長や、元ゴールドマンでエジプト系女性財界人のデイナ・パウエル国家安全保障会議次席議長らのグループがホワイトハウスでバノンたちと対立関係にある。バノンはナショナリストで、コーンたちはグローバリストだ。更に言うと、バノンは共和党員だがクシュナーやコーンは民主党員で、これがバノンにはものすごく気に食わない。最近は「あの民主党員をなんとかしろ」と毒づくこともあったという。

 プリーバス首席補佐官は、2月に開催されたアメリカの保守系の全国的なお祭り「CPAC」でバノンと一緒に登場し、ゲストトークを行ったが、実はこの二人はホワイトハウスの権力闘争では最近まで呉越同舟の関係にあった。ところが、バノンをクシュナーとマクマスターが更迭したことで、ホワイトハウスの権力構造が完全にエスタブリッシュメント主導になった。早い話がブッシュ共和党政権に極めて近い構造になったのだ。そう考えると、トランプがシリアに軍事攻撃を行ったことがよく納得できるだろう。

 ハーバート・レイモンド・マクマスターNSC議長は、国防長官のジェームズ・マティスと同様にペンタゴンの権益を代表する人物であり、マケイン上院議員などネオコン派からも受けがいい。今回の軍事作戦はマクマスターとマティスがトランプに決断を求めたものだ。
 化学兵器による攻撃の後、レックス・ティラーソン国務長官は、シリアのアサド大統領に対する評価を180度変化させ、シリアにはアサドの居場所はないと断じた。しかし、この攻撃の決定に関わっていたかというと微妙なところであり、ティラーソンは国務長官として今のところ自ら選んだ一人の部下もおらず、ペンタゴンに出し抜かれた形だ。

 ただ、今回の軍事作戦はネオコンによる「政権乗っ取りクーデター」か、というと必ずしもそうではないフシも見られる。というのも、キッシンジャーに近いニューヨーク金融主流派のシンクタンクである外交問題評議会のリチャード・ハース所長が、攻撃当日の「フィナンシャル・タイムズ」の朝刊に、シリア軍基地の無力化を行い、シリア軍が化学兵器による攻撃を行う事ができないようにすべきだと寄稿していたからだ。ヒラリー・クリントンも同じような提案を同じ日の講演会で語っていたように、これはエスタブリッシュメントの超党派の見解だと見ていいだろう。この攻撃に批判的だったのは、リバータリアン(軍事予算も財政赤字の原因と見る)のランド・ポール上院議員や超リベラル派の民主党のバーバラ・リー下院議員らであり、大多数は民主党、共和党問わず、トランプが孤立主義的なスタンスを放棄して、シリアに軍事介入をしたことを賞賛している。つまり、総合的に見て、トランプ政権が、ポピュリズムの立場から、エスタブリッシュメントに取り込まれたことは確かだ。それを象徴するのが、バノン主席戦略官の更迭だったわけだ。

 トランプ政権を巡っては、フリン補佐官の辞任のあとも、トランプが「オバマがトランプタワーの盗聴を指示した」とトランプがツイッターで書いたことなどを巡って、共和党のトランプ派のデヴィン・ニューネス下院情報委員長と、民主党や共和党のネオコン派の間で、去年の大統領選挙へのロシアの関与をどのように調査するかどうかという点で対立が起きていた。オバマ政権によるトランプ陣営への盗聴した中身を実名で書いた文書を前政権の幹部が流布させていた証拠をホワイトハウスで見せられたと主張するトランプ派のニューネス議員に対して議会軽視だという批判が高まり、更にはその情報漏えいにはオバマ政権のスーザン・ライスNSC議長が関わっていたという根拠不明の噂話まで出回った。そのように、メディアが騒がしくなっていたさなかに、シリアでの化学兵器の虐殺事件が起こったわけだ。
これまで超党派で支持を得る決断をしたことのなかったトランプが初めて超党派の支持を得たのがこの軍事攻撃だった。やはりアメリカの大統領は軍を動かして初めて議会から認められるのだ。これはおそらくローマ帝国以来の帝国の伝統だろう。だから、この勢いで、ロシアとのトランプ政権の癒着をめぐるこれらの問題も消えてなくなるかもしれない。やはりアメリカという国は戦争をする国であり、大統領の権力基盤は戦争によって作られるということを実感する。

(つづく)

<プロフィール>
nakata中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

 
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