2024年11月13日( 水 )

ホワイトハウスの「権力闘争」のさなかに起きたシリア攻撃(4)

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SNSI・副島国家戦略研究所 中田安彦

 当然のことだが、トランプが迅速にシリアへのミサイル攻撃をこのタイミングで決断したのは、「いざとなればアメリカは軍事力を行使する」ということをシリアやその後見人であるロシアに示すことが目的である。中国の国家主席との晩餐会中に攻撃を実行したことは、北朝鮮問題をうまく処理してほしいという習近平国家主席への無言の圧力でもある。中国がアジアで威張るなら北朝鮮をなんとかしろ、ということだ。また、ロシアが今後どのように出てくるかということは11日にティラーソン国務長官が訪露するのでそれ以降に明らかになる。ただ、今のところはロシアもことを大きくするつもりはないようだ。

 ただ、今年はイランでも5月中旬に大統領選挙が行われるなど中東ではビッグイベントがある。ここで穏健派ではなく強硬派が大統領になると、更にアメリカはシリアだけではなくイランとも対決姿勢を取るように追い込まれることもありうる。もともとトランプ大統領は、反イスラム国(スンニ派)でありながら、同時に反イラン(シーア派)という戦略的に両立しにくいスタンスを中東問題では示してきた。更にはサウジアラビア野側に立って、イエメンでも反アルカイダの軍事作戦も行っている。反アサド政権のトルコのエルドアン大統領が不満を示す、クルド人勢力への反ISIS軍事支援も行う姿勢を見せてきた。ところが、今度はISISと対立しているアサド政権に対する攻撃に打って出た。これは一歩間違えばアメリカは中東の宗派対立、ロシアとの対立に巻き込まれていく危険性を秘めており、複雑な利害対立が存在する中東情勢がアメリカのアキレス腱になるかもしれない。

 トランプが頼りにしているクシュナーについても、そのうちに国務省や国防総省から権力の拡大を不満に思う声が出てくるだろう。ネオコン派は打倒アサド、打倒プーチンを目指しているので、マケインやルビオ上院議員が今後どこまでトランプに強硬姿勢を求めるかが重要になってくる。イスラム国はイラクのモスル、シリアのラッカといった2大都市で勢力を保っているが、かなり弱体化したとも見る向きもあり、アメリカがISISからシリア政権交代に目的をシフトさせた可能性もある。

 対日政策絡みで言えば、今週、アーミーテージ国防長官の側近であった、ランダール・シュライバー元国務次官補代理を、マティス国防長官が政策担当の国防次官に起用するかもしれない、と「ディフェンス・ニュース」が報じたのが気になる。シュライバーはアーミテージ・インターナショナルの共同設立者で、中国に対する戦略を検討するシンクタンク「プロジェクト2049」のメンバーでもあり、日本の笹川平和財団でのシンポジウムなどを通じて日本のネオコン派にも知られた存在だ。また、台湾政府は否定したが、台湾の自由時報は、台湾の蔡英文総統が今年の1月に中南米訪問の途中で米国を経由した際に、保守系のヘリテイジ財団の関係者と一緒にシュライバーが会食したと報じた。
http://www.sankei.com/premium/news/170120/prm1701200005-n1.html
 http://www.defensenews.com/articles/schriver-emerges-as-potential-pentagon-policy-nominee

 トランプ政権では、バノンとフリンが、選挙期間中にトランプを批判した有識者や元政府高官を政権には起用しないという方針を表明していたが、二人が失脚したことでこのルールが変わる可能性もある。必要最小限で500近くあるという政治任用ポストはまだ50弱しか指名されていないのであり、国防総省、国務省では副長官も決まっていない。エスタブリッシュメントにとっての邪魔者であったバノンが失脚していくことで、急速に「ジャパンハンドラーズ」の復権の動きが出てくるかもしれない。アメリカべったりの安倍政権には歓迎するべき動きだろう。

(了)

<プロフィール>
nakata中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

 
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