【技術の先端】自動運転技術を支えるセンサーシステム(1)
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九州工業大学 榎田修一 教授
現在注目されている技術の1つに「自動車の自動運転」がある。一口に自動運転といっても、当然ながら、そこにはさまざまな技術が用いられている。今回は自動運転時に周囲の状況を「認知」する技術についての研究を行っている、九州工業大学の榎田修一教授にお話を聞いた。
ドライブレコーダーから自動運転技術へ
――自動運転技術に関わるようになったきっかけを教えてください。
榎田修一教授(以下、榎田) 私は元々自律型移動ロボットの研究のなかで画像処理技術を扱っていたのですが、10年ぐらい前に、筑波にある(一財)日本自動車研究所(JARI)さんと一緒に共同研究を行ったのが自動車との関わりの始まりです。
当時、事故状況などを画像記録するために、車両へのドライブレコーダーの搭載を推進しようという流れがありました。ドライブレコーダーの普及に貢献された団体の1つがJARIさんです。
ドライブレコーダーは後から事故の状況を確認できるものですが、事故発生時の状況確認だけでなく、カメラで記録していた画像からさまざまな情報を解析できないかということで、その画像処理に関わる部分を引き受けて共同で研究していました。最初は、画像から先行車両との車間距離を解析するということなどをやっていましたね。
時を同じくして、文科省が行っている「知的クラスター創成事業※1」という施策がありまして、地方における産学連携での技術掘り起こしをはじめていた時期でした。第1期と第2期がありまして、自分はどちらも参画して、第2期では小さなテーマではありましたが代表を務めさせていただきました。
そこでは「せっかく車載カメラがあるのだから、車間距離の解析だけじゃなくて、自動車の安全運転を支援できるようなセンサーシステムを作っていこう」と基礎技術を開発しました。このときは残念ながら九州の企業さんとはマッチングしませんでしたね。※1 知的クラスター創成事業
地域(地方自治体等)の主体性を重視し、知的創造の拠点たる大学、公的研究機関等を核とした、関連研究機関、研究開発型企業等による国際的な競争力のある技術革新のための集積を創造し、その研究成果を社会へ還元しようという産学連携プロジェクト。――まさに当時の最先端ですね。
榎田 ドライブレコーダーやカメラが自動車に搭載されはじめ、「今後、何ができるのか」を洗い出していた時期に、国のプロジェクトに関わらせていただいたのは良い経験でした。当時はドライブレコーダーの製造、販売を行っている企業さんと産学連携で協力して研究していました。
あとは国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2009年から10年にかけて行った「低炭素社会実証事業」という、「低炭素社会を情報技術で実現しよう」というプロジェクトにも参加しました。このプロジェクトでは西鉄さんと組んで、バスの接近システムにバス車内の混雑具合情報を付加するようなシステムを作りました。
例えば、福岡市内で目的のバス停まで複数のバスを選択できる場合に、あらかじめ車内の混雑具合がわかっていれば空いている方に乗ろうと考えますよね。そういったかたちで公共交通機関の利便性を上げることができれば、みんなが自動車に乗る必要が減り、結果として低炭素社会に繋がっていくのではないかという考え方です。プロトタイプとして、その情報が携帯電話に送られてくるというシステムも福岡の企業さんと共同で開発しました。飯塚市内で実際にこのシステムを使ったバスを走らせて、地元の人たちにアンケートを取って効果を検証するなど、事業のお手伝いもしました。
そして、2016年は、経産省が公募した「次世代高度運転支援技術」に関するプロジェクトについて、JARIさんと一緒に研究開発を行いました。この次世代高度運転支援技術というのが、いわゆる「自動運転」に関わる技術のことです。――先ほどのカメラを使った画像処理をさらに発展させて、より高度な支援を行うというイメージでしょうか。
榎田 そうですね。今はカメラだけではなくて、「LIDAR(ライダー)」という3Dのレーザーレンジセンサを使って歩行者や車両等を広範囲かつ長距離で自動認識する技術を開発して、より安全な運転を実現するための研究をしています。我々のような情報技術を専門とする研究者が、どうやって安全なクルマ社会に貢献できるのか、そして九州発の技術で実現したときのインパクトを考えると、とても楽しみです。
一部実現もされている「ADAS(先進運転システム)※2」や「コネクテッドカー※3」は情報通信技術を元にして発展してきたものですが、いよいよ完全自動運転を作っていこうというフェイズですね。※2 ADAS
他の車両などに追突しそうになる前に自動でブレーキを作動させる、先行車両と一定間隔を保ったまま走行する、車線からはみ出さないようにクルマを制御するといった、事故の可能性を事前に検知し回避するシステム。※3 コネクテッドカー
インターネット通信機能を付加し、安全性を高めたり、効率的な運転を助けるためにさまざまなデータを収集する機能を搭載した自動車。(つづく)
【取材・文:犬童 範亮】<プロフィール>
榎田 修一(えのきだ・しゅういち)
1974年、福岡県太宰府市生まれ。九州工業大学 大学院情報工学研究院 知能情報工学研究系 教授。研究分野はパターン認識、画像処理、画像解析。関連記事
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